COLUMN コラム

ほんとうの意味で「他者の意見」を聴けていますか?

落合文四郎
Alue co.jp CEO
2022.03.10

前回の記事では、改善・イノベーションの三つ目のプロセス「観察のフィルター調整」について、フィルターとは一人ひとりが持つ価値観であることと、そのフィルターが形成される過程には個の生存戦略として過去の経験を通じて培われた過程、もう一つは主体的真理や願いなどによって涵養されてきた過程の2つがあることをお話ししました。

今回の記事では、引き続き「観察のフィルター調整」について、どのようにすればフィルター調整をすることができるのか、また、自分だけではなくチームとしてフィルター調整ができるようにするにはどうしたらいいのかについてお話しします。

アルー代表取締役 落合コラム ほんとうの意味で「他者の意見」を聴けていますか?

まずは自分の価値観に自覚的になること
観察のフィルターを調整するための一丁目一番地は、自分の価値観に自覚的になることです。自分が「眼鏡」をかけていることに気づかなければ、その「眼鏡」を調節することはできません。

とはいえ、自分の「眼鏡」に気づくことは簡単ではありません。なぜなら、多くの場合において無意識に「眼鏡」を通して物事を見ているからです。実際に眼鏡をかけていたり、コンタクトレンズをしたりしている人はわかると思いますが、普段ものを見ているときに眼鏡やコンタクトレンズの存在はほぼ忘れているのではないでしょうか。これと同じで、自分たちの価値観という「眼鏡」は普段あまり意識していないことが多いのです。

では、どのようにすれば、自分の価値観に自覚的になれるのでしょうか?

まずは、他者の意見を聴くことです。

アルー代表取締役 落合コラム ほんとうの意味で「他者の意見」を聴けていますか?
当たり前のアドバイスですが、ほんとうの意味で他者の意見を聴くことは非常に大きなパワーを持ちます。「自分のモノの見方を調整する」という可能性を常に持ちながら、他者の意見を聴けている人は、実はそう多くはありません。

自分と他者の違和感を大切にする
他人の意見の聴き方にはポイントがあります。自分と他者の「言語化できない違和感」を大切にすることです。

対話や会議の場などで、相手が違和感や引っ掛かりを感じている様子があれば、見逃さずにキャッチします。なぜなら、そこには自分には見えていない視点が隠れている可能性が高いからです。

同様に、自分が違和感をもったことも見逃してはいけません。そこには、自分が自覚できていない視点が隠されている可能性が高いからです。

ここで言う違和感というのは、感情や直感のようなものであり、必ずしも言語化して説明できるものではありません。「言語化できない違和感」について、うまく説明できないからとか、言語化できないからといって捨象するのではなく、大切にしましょう。「言語化できない違和感」が生じたときほど変わるチャンスだと言っても過言ではないでしょう。

アルー代表取締役 落合コラム ほんとうの意味で「他者の意見」を聴けていますか?
他者の違和感をキャッチできたら、なるべく表現してもらうように働きかけます。「どんなイメージ?」「言葉にするとどんな感じ?」など、根拠を説明させるのではなく、感覚をそのまま言葉にしてもらうよう投げかけをしていきます。

逆にやってはいけないのは、他者の違和感を無視、あるいは論破してしまうことです。

他者の違和感に向き合わずに物事を進めた場合、短期的にはよくても、長期的には必ずと言っていいほど問題が起きます。他者の違和感は、物事をさらに良くするチャンス、あるいは、自分が変わるチャンスと捉えたほうが、長期的には必ずと言っていいほどプラスになります。

特に切羽詰まっているときなど、違和感に立ち止まるのは大変難しいことですが、そういうときほどスルーせずに立ち止まるべきです。

また、違和感を表現してもらうときにケンカ腰にならないことも重要です。他者の違和感は自分に対する反対意見や進んでいる物事への抵抗と見做してしまいがちなので、注意が必要です。特に自分が切羽詰まっているときは、余裕を持って聞けないことも多いかもしれません。

そんなときは、あえて別の機会を設けることも有効です。私の場合は社員と1on1の機会を設定し、個人同士の対話の中で様々な意見を言ってもらうようにしています。

1on1は議論の場ではないので、お互い深刻になりすぎずに正直な想いを開示しやすいです。実際に私も、社員との1on1を通じて、自分には見えていなかった視点のヒントをもらい、自分が持っている価値観に気づくことがとても多いです。

相手にエスノグラフィーする
他者の違和感を受け取る上では、相手にエスノグラフィーすることも有効です。エスノグラフィーとは元々社会学や文化人類学などの領域の用語で、調査対象の生活環境に身を置いて行動を共にすることで、深い理解を促す調査手法のことです。ここでは「相手になりきる」という意味でご理解ください。

アルー代表取締役 落合コラム ほんとうの意味で「他者の意見」を聴けていますか?
「なりきる」にも深さがあります。ここでは、相手の考え方や価値観、そしてそれらを形成してきた文脈も含めて、深い意味で「なりきる」ことを目指します。もちろん完全に「なりきる」ことは無理ですが、なるべくその人に「憑依する」ような感覚を目指します。

なぜかというと、深い意味で相手に「なりきる」ことができると、自分を相対化しやすくなるからです。

深い意味で相手に「なりきる」とは、相手のモノの見方を疑似体験することです。そうすると、普段の自分に戻ってきたときに「自分の見方は数あるうちの一つにすぎないな」と相対化できる感覚になります。

エスノグラフィーするときの感覚としては、相手の思考・直感・身体感覚をただそのまま受け取るイメージです。これは、自己一致の感覚とほぼ同じです。

自己一致とは、メタ意識から自分の思考・直感・身体感覚をただそのまま受け取ることでした。これはいわば自分へのエスノグラフィーです。相手に対しても同じように捉えていけば、それが相手へのエスノグラフィーになります。

相手に「なりきる」ときに、意識的に自分を相対化して捉えようとする必要はありません。深いレベルで相手に「なりきる」ことに集中すれば、自分の価値観の相対化は自然にやってきます。

映画監督の視点から、映画俳優としての自分を見る
ここまで、相手の意見を聴き、相手になりきることによって自分の価値観が自然と相対化されてくるという話をしましたが、この感覚が掴めているという方には、メタ意識で自分を観察するということにチャレンジ頂きたいと思っています。

メタ意識で自分を観察するというのは、映画のメタファーを用いて表現すれば、映画のストーリーの中にいる主人公の感覚だけではなく、映画監督の感覚を持ってみる、ということです。

アルー代表取締役 落合コラム ほんとうの意味で「他者の意見」を聴けていますか?
普段の私たちは、自分の人生を生きる主人公です。主人公の視点で様々な経験をしたり、感情を抱いたりします。

これを、映画監督の視点で捉えてみます。主人公としての自分は、大きな舞台の中の演者のひとりです。幽体離脱したような感じで、舞台の中の自分を観察してみます。

この方法のいいところは、自分の思い込みも含めて、ありのまま自分をみることができる点です。

たとえば組織のリーダーが問題にぶつかったとき、主人公視点であれば「自分が何とかしなければならない」と思うかもしれせん。

一方で、映画監督視点だと「リーダーとしてがんばろうとしていて素晴らしいな」「リーダーだからそういう問題が起きることもあるよな」「リーダーだけの力でやらなくてもいいかもな」などと、一歩引いた見方になります。

このメタ的な見方がポイントで、「リーダーとしてなんとかしなければいけない」というような想いからくる視点の偏りに気付きやすくなります。

これまで述べた話はいずれも、「主人公としての自分」から一度離れ、外から様々な角度で見ることにつながります。このように様々な登場人物の視点を行き来することで、徐々に観察のフィルターが調整されていきます。自分の主観をどんどん相対化していくイメージです。それによって、物事をどんどん多面的に、よりありのままの姿に近い形で、観察できるようになっていきます。

チームとしてフィルター調整できる場を整える
ここまでは、個人としてのフィルター調整についてお話しをしてきましたが、改善・イノベーションにおいては、チームメンバーそれぞれがフィルター調整することができることが望ましいと言えます。

そのためには、一人ひとりが違和感を表明することができる心理的安全性が確保された場を創ることが最も大切なことになります。一人ひとりが躊躇することなく違和感を表明することができて、その違和感に対して他のチームメンバーがエスノグラフィーすることによって、違和感を持つ人の視点を感じ取ること、そして、その感じ取ったことを契機として自分のフィルター調整を必要に応じてするような場が必要となります。

一言で言えば、心理的安全性が確保された対話の場を創るということです。それはチームビルディングのような場かもしれませんし、オフサイトミーティングのような場かもしれませんし、定例会議の一部のパートかもしれません。

アルー代表取締役 落合コラム ほんとうの意味で「他者の意見」を聴けていますか?
最も大切なことは、その場のリーダーとなる方の心のあり方です。詳細はこちらの記事をご覧ください。

過去記事:「リーダーの自己信頼が、チームに心理的安全性をもらたす」

今回は、自分の価値観に自覚的になり、フィルターの調整をするために、自分の主観だけではなく、複数の視点をもつことについてお話しをしました。次回は、具体的にどのような手順でフィルター調整をすると良いのかについてお話しします。

落合文四郎blog
2022.03.10