COLUMN コラム

見えている課題は「氷山の一角」にすぎない

落合文四郎
Alue co.jp CEO
2022.02.14

前回の記事では、ビジネス・組織運営において難しい課題であればあるほど、人や組織の価値観レベルの変更(=適応課題への対応)が求められるということ、そして、価値観変容の第一歩は、自分に「見えていないもの」があることに自覚的になることから始まるということをお話ししました。

今回の記事では、どのようなモノの見方をすれば、見えるものだけに囚われることなく事象を捉えることができるのかについてお話ししたいと思います。

Outside the box
突然ですが、みなさんにクイズです。

アルー代表取締役 落合コラム 見えている課題は「氷山の一角」にすぎない
9つの点がありますね。これらの全ての点を一筆書きの要領で繋いでいくときに、なるべく少ない本数の線(画数)で繋いでみていください。

まずは、4本の線分をつなぎ合わせて、一筆書きの要領で、全ての点を繋げますか?

難しいと感じた場合は、5本からやってみましょう。周囲を囲むように繋いでいくと、5本の線分で一筆書きできますね。

5本ができたら、4本に再チャレンジしてみてください。

できた方は3本にチャレンジしましょう。3本もできたら、1本でやってみてください。

いかがでしょうか?答えはここでは示しませんが、答えを見出すポイントの一つは、9つの点で作られる正方形の「枠の外にでること」ですね。

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自分たちが普通に考えるときに持ってしまう枠組みを外れること(Outside the box)が鍵となります。これは、前回の記事でお伝えした「見えていないことを自覚する」ということにもつながります。

人はモノを見るときに、何らかの前提や枠組みを用います。例えば、リンゴが目の前にあるときに、「あ、リンゴがある」と理解しますね。これは、その目の前のものを「リンゴ」という言葉で表現されるイメージ・枠組みによって捉えています。

ですから、モノを見るときに、何らかの前提や枠組みを用いること自体は自然なのですが、この前提や枠組みによって「見えにくくなるもの」もあるということに自覚的になる必要があります。

そして、今モノを見ている枠組みを自覚しながら、その枠組みの外側にどのようなことがありえるかを認識しようとすることを、Outside the boxと呼んでいます。

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Outside the boxの鍵
では、どのようにすれば、Outside the boxを実践することができるのでしょうか?

最初にお伝えしなければいけないのは、Outside the boxを完全に保証する方法はありません。Outside the boxを実践できる何らかの考え方や枠組みがあったとしても、今度はその考え方や枠組みに囚われることになるという宿命をもつからです。

本質的には、「自分たちは、今どんな枠(前提、常識、前例)に囚われているだろうか?」ということを問い、「その枠の外側には、どのようなことがありえるだろうか?」ということを問い続けるしかありません。

一方で、ビジネス上や組織運営上の改善やイノベーションという文脈に限定すれば、Outside the boxを実践するための補助線となるような枠組みを示すことはできます。

ビジネス上や組織運営上の目に見える現象・課題は全体のごく一部であり、その深層にはいくつもの要因が複雑にからまり合っています。見えているものは「氷山の一角」であり、改善や変革の成否は「氷山の下をどこまで深く捉えることができるか?」にかかっています。

これを表したのが次の図です。

アルー代表取締役 落合コラム 見えている課題は「氷山の一角」にすぎない

目に見える現象を「氷山の一角」として、その下の見えていない部分をいくつかの層にわけて整理しています。

第1層:現象
目に見える現象は、一番上の「氷山の一角」の部分にあたります。定められたゴールやKPIに達していない、何か具体的な問題が表出している、といった現象から改善・イノベーションの必要性が認識されます。

これはあくまで表層で起きている現象にすぎません。ここから現象の要因となっている構造をどこまで深く捉えるかが、改善・イノベーションのカギです。

第2層:構造・背景
2層目では、起きている現象の背景を一段深く理解しています。いまこの瞬間には目に見えていないものも含めて、「なぜこうなっているか?」を構造的に理解していきます。ここで力を発揮するのは、統合的・全体的に思考することです。物事の関係性を捉え、整理していくイメージです。

より具体的には、事象同士の関係性を整理した構造化マップの作成などが役に立ちます。(以前の記事でお見せしたものの再掲となります)

アルー代表取締役 落合コラム 見えている課題は「氷山の一角」にすぎない
物事をパターン化して捉える思考も役に立ちます。よくある問題のパターンを認識しておくことで、背景構造に気付きやすくなるのです。

例えば、目標が高すぎて達成のための改善行動に結びつかない、現状維持が最優先で新しい取り組みに手が回らない、といったパターンは様々な場面で見られます。

第3層:メンタルモデル
次の層のメンタルモデルとは、まさに前回の記事で述べた、人・組織の思考モデルや価値観のことです。

前回の記事で述べた当社における変革の例では、ベンチャー起業ならではの「スピード重視の文化」が、成長に従って様々な問題を生み出している可能性に思い至ったことに触れました。

「スピード重視の文化」は、当社がこれまでの成功の中で形成してきた、さらに言えば成功の要因になってきた価値観です。このように過去の成功体験に紐づくような価値観を手放すことには抵抗感が伴います。

このように、メンタルモデルの見直しは自己否定の感覚を伴うリスクがあります。(一方で、自己否定する必要は全くありません。)この層まで掘って自分(たち)に向き合うのは、非常にタフな営みです。

よくあるパターンは、「今やっていることはダメなんだ」と否定だけの感覚になってしまうことです。さらにうまくいかないのは、第三者的な立場の人が「今やっていることはダメだ」と単刀直入に否定してしまうことです。

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自分で自分のメンタルモデルに気付くのは難しいですが、逆に他者から見ると、特定のメンタルモデルに捉われている様子が明らかにわかることがあります。過去の成功に囚われて、有効な戦略を打ち出せずにいる企業を見たり、プレイヤー時代の成功体験に囚われてマネジャーとしての効果的な立ち居振る舞いができない人を見たりするときに、そのような感じることも多いでしょう。

しかし、第三者からみて明らかだからといって、本人やその組織の価値観の否定から入っても、当事者は到底受け入れられません。それまでの成功を支えてきた価値観であれば、なおさらです。

むしろ、「これまでがダメだったわけではない」「これまでの成功のためには必然のメンタルモデルだった」というように、これまでの経緯を振り返り、そのようなメンタルモデルをもつことの必然性を認めることから始める必要があります。

時間をかけて、これまでの経験をエスノグラフィーしながら、これまでの歩みを受容していくプロセスが必要です。

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現状のメンタルモデルが形成された経緯を受容できると、さらに「大いなる目的」のために、そのメンタルモデルを手放すことを選ぶ準備ができます。これまでを否定するわけではなく、むしろ受容した上で、次のステージのためにモノの見方を変えてみよう、というイメージです。

第4層:使命・主体的真理
「大いなる目的」とつながるのが、第4層の使命・主体的真理です。主体的真理については何回か述べていますが、自分にとって生きがいとなる理想、自分固有の生きる目的のことです。企業の場合はミッションやパーパスに近い概念です。

過去記事:「主体的真理とは何か?」

当社の主体的真理は、「人のあらゆる可能性を切り拓く」ことです。この深層にある想いと照らし合わせたときに、「第3層の「スピード重視」というメンタルモデルを変えるべきか? 」という問いに対して、組織として一定レベルで成長した今のフェーズであれば、その答えはyesだと判断しました。前回述べた変革の裏側には、このような思考プロセスがありました。

課題が第3層のメンタルモデルに起因することが認識されたときに、第4層の使命・主体的真理(大いなる目的)につながることによって、はじめてメンタルモデルを変える決断ができます。大きなる一貫性のために、小さな一貫性を手放すことができます。

第5層:存在
最も深層に「存在」というレイヤーがあります。ビジネス上や組織運営上の改善・イノベーションという文脈においては、直接的にこの層に立ち戻ることは少ないかと思います。一言で言えば、第4層の使命・主体的真理というレベルさえも変わっていくような変革やイノベーションにおいて、立ち戻るものは自分(たち)という存在そのものになるということです。

現代のビジネスにおける企業は、使命・主体的真理などの第4層になる目的格をもとに集まっているコミュニティですから、第4層自体が変わっていくことは稀だと思いますし、それは「企業」の栄枯盛衰そのものを示すものかもしれません。この章においては、第4層までをメタ認知する視点、くらいに捉えていただければと思います。

多次元的に捉える
これまでお話ししてきた通り、ビジネス上や組織運営上の課題の捉え方には、さまざまな階層があります。

このような課題に対して効果的に改善・イノベーションを進めていくためのポイントは、課題を多次元的に捉えることができるかどうかにあります。多次元的というのは、この図における複数の階層に示されるようなモノの見方を持つことができるかということです。

どの階層が重要で、どの階層が重要ではないという話ではありません。どの階層で見た課題のどれをとっても、事実の一面を表していることが多いですし、どれも重要です。

アルー代表取締役 落合コラム 見えている課題は「氷山の一角」にすぎない
前回の記事で、当社が抱えている課題についてお話ししましたが、これを例にとって多次元的に捉えるということを表現すると次のようになります。

①第1層:現象
・業務が増えた上に業務プロセスが複雑になったことで、現場の疲弊感や、新規入社者のオンボーディングの難しさなど、様々な問題が表出してきた

②第2層:構造・背景
・目標設定やKPIの不整合、事務作業の多さ、部署間連携がうまくいっていないこと、施策のPDCAがうまく回っていないことなど、多くの要因が絡まっている(当社の課題意識2021年初の図を参照)

③第3層:メンタルモデル
・第2層の構造・背景を生み出している組織文化として、「スピード優先」という価値観がある
・経営陣の「前工程(営業やマーケティング)重視、後工程(オペレーション)軽視」という捉え方がある

④第4層:使命・主体的真理
・当社の主体的真理は「人のあらゆる可能性を切り拓く」ことである

このように、目に見える現象は、あくまで「氷山の一角」です。そこから、メンタルモデル、ひいては使命・主体的真理まで捉えていくことが、改善・イノベーションを推し進める鍵となります。

アルー代表取締役 落合コラム 見えている課題は「氷山の一角」にすぎない
今回の記事では、ビジネス上や組織運営上の課題について、見えるものだけに囚われることなく、多次元的に捉えていくためのモノの見方についてお話ししました。

次回から、改善・イノベーションのプロセスについてお話ししたいと思います。

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2022.02.14