COLUMN コラム

戦略ストーリーはどのように進化するのか?

落合文四郎
Alue co.jp CEO
2021.11.04

前回の記事では、戦略ストーリーに一貫性をもたらすコンセプトが、どのように生み出されるのかについてお話ししました。

戦略ストーリーにおいて新しい価値要素が創造される起点は、コンセプトが意識されることにあります。そして、そのコンセプトをもとに新しい価値要素が生み出されるためには、何段階かのプロセスを踏むことになります。今回はこのプロセスについて説明していきます。

戦略ストーリー進化のステップと、価値創造プロセスの位置付け
まずは、戦略ストーリーをつくることの全体像を確認するために、戦略ストーリーの5つの進化ステップをおさらいしましょう。

これまでの記事において、戦略ストーリー進化のステップの①〜④までを説明してきました。こちらについて知りたい方はこちらの記事をご参照ください。

過去記事:「仲間と顧客はどのように集まるか?」

ステップ①〜④を経て、いよいよ⑤の「価値の創造」ステップになります。この価値の創造を行うためには、戦略ストーリー全体の一貫性を担保するコンセプトを持つことが大前提となるということを前回の記事でお話ししました。

明確になっているコンセプトにつながりながら、新しい価値要素を創造するプロセスが「価値創造プロセス」です。これから「価値創造プロセス」についてお話ししていきますが、その前に、このような疑問に答えておく必要があるように思います。

「戦略ストーリー進化のステップがある中に、さらに詳細な価値創造プロセスがあるというのはどういうこと?」

このような疑問をもつことはとても自然なことと思います。私も、殊更に複雑にするのではなく、なるべくシンプルにお伝えすることが大切と思っています。

しかし、以前の記事でもお話ししましたが、いい戦略を「理解すること」と「つくること」のギャップを埋めるためには、戦略ストーリー進化のステップの中に、さらに詳細なプロセスを記述する必要があると判断しました。

「戦略を理解する」ときには、マクロ的・結果的・積分的に捉えることができれば十分ですが、「戦略をつくる」ときには、ミクロ的・原因的・微分的な感覚が伴う必要があるからです。

自動車で旅行にいくメタファーで表現すると次のような感じです。旅行の目的地を「いい戦略をつくること」とすれば、その目的地につくためには自動車をあるスピードで走らせる必要があります。そのスピードにあたるものが、「戦略ストーリー進化のステップ」です。そして、自動車をあるスピードで走らせるためには、アクセルを踏む必要があります。そのアクセルにあたるものが、今回ご紹介する「価値創造のプロセス」です。

いい戦略をつくることを、自動車で旅行に行くメタファーで表現する

旅行の目的地(道のり)・・・いい戦略をつくること
自動車のスピード(速度、一次微分)・・・戦略ストーリー進化のステップ
アクセルを踏むこと(加速度、二次微分)・・・価値創造のプロセス

旅行の目的地にいくためには、自動車のアクセルを踏む必要があります。そして、自動車のアクセルを踏むということは、体内感覚に近いものであり、「やろうと思えばできること」になります。

いい戦略をつくるということもこれと同じで、体内感覚に近く、「やろうと思えばできること」というレベルで、ミクロ的・原因的・微分的に捉える必要があると思っています。

そして、ミクロ的・原因的・微分的に捉えるということは、意識の使い方を意識化することであるということは、これまでも繰り返しお伝えしてまいりました。これからご説明する「価値創造のプロセス」も、意識の意識化という世界観で捉えています。

価値創造の6つのプロセス
価値創造プロセスは、次の6つに分けられます。各プロセスにおいて活性化する意識を、3+1意識モデル上に番号で示しています。

6つのプロセスについてご理解いただくために、各プロセスの概要をこれからご説明したいと思います。また、内容を抽象的に説明するだけではなく、具体事例をご紹介することで理解を深めていきたいと思います。

まずは、価値創造プロセスの始まりとなる「直感の活用」です。

価値創造には直感を活用することが大切

①戦略ストーリーの直感:
ヴィジョンの実現に向けた戦略ストーリーに繋がるひらめきをメタ意識/直感意識で捉える

最初のプロセスでは、ヴィジョンあるいはコンセプト(アイデンティティ+コアバリュー)の実現に向けた戦略ストーリー上の価値創造につながる閃きを捉えます。

「閃きって、得ようとして得られるものなの?」

そのような疑問が湧く方も多いかもしれません。おっしゃる通り、閃きは降りてくるものであり、いまここですぐに生み出せるようなものではありません。ただし、直感や閃きを得やすくすることは可能です。

直感や閃きを得やすくするためには、直感意識の活用がポイントです。3+1意識モデルにおいては、直感意識を活性化するということに相当します。直感意識とは、「直覚的に、本質や真理、生命(いのち)や愛の存在を感じる意識」のことであり、一言で言えば「一(いち)なるものに統合する意識」です。

この「一(いち)なるものに統合する意識」が、価値創造に役立ちます。直感の活用は、ヴィジョンの導出においても活用しました。本質的には全く同じ直感活用の機序となります。

ヴィジョン の導出において、直感活用する方法については以下の記事を参照ください。

過去記事:「ヴィジョンを閃く(ひらめく)ためには何が必要か?(ヴィジョンの構想プロセス②)」

上記の記事でも書きましたが、ヴィジョンや戦略を考える上で、市場や競合の分析をたくさん行ったのに、導出したヴィジョンや戦略が、面白くないもの、空虚なもの、当たり前のものになってしまった経験はないでしょうか。

戦略を考える上で、市場や競合の分析は必要です。ただ、それだけでは、自分たちのヴィジョンやコンセプトにつながる創造的な戦略ストーリーは生まれてきません。分析や論理的な思考から導き出されるものは、いくらかの示唆をもたらすことはあっても、創造的な価値創出にはつながりにくいのです。

思考意識は、物事を「分ける」ことによって理解する方向性を持つのに対して、直感意識は物事を「統合する・総合する」ことによって1つのイメージとして捉える方向性を持ちます。戦略ストーリーの構想、新しい価値の創造には、思考意識だけではなく、直感意識の働きが不可欠なのです。

直感意識を活性化させるためにも、普段の仕事において幅を利かせやすい思考意識の枠を外し、閃きが降りてくる環境を用意します。

直感意識を有効に活用するには、「問いの持ち方」が重要です。「どうありたいか?」「どうしたら矛盾を統合できるか?」「本質的な原理・原則は何か?」といった問いが有効です。

逆に、「どうなっているか?」「原因は何か?」といった問いは、思考意識の特徴である分析・凝縮の方向を活性化させるため、戦略ストーリーの直感の段階ではあえて避けるのも一つの手です。(このような問いが無駄という話ではありません。このような問いだけでは、閃きは得にくいということです)

直感の重要性は、理論的にも示されている
「何となく、直感が大切ということはわかったけど、本当なのだろうか?」

そんな疑問が残っているかもしれませんね。私自身、直感というよりは思考をメインに活用しすぎるがあまり、「思考できるものが全て」という価値観を持っていた時期がありますので、そのような疑問はとても理解できます。

実は、直感の重要性は理論的にも示されています。それは、二重過程理論(Dual-Processing Theory)と呼ばれるものです。この理論において、「外部刺激に対して、人は脳内に、2種類の意思決定のシステムが同時に起こる」メカニズムが明らかにされています。

システム1が「自動的に高速で働き、努力はまったく不要か、必要であってもわずかであるような認知判断のシステム」であり、いわゆる直感です。

システム2が「複雑な計算など頭を使わなければできない困難な知的活動であり、しかるべき注意を割り当てるような認知判断のシステム」であり、いわゆる(論理的)思考です。

直感と思考は相互補完的です。直感は、認知バイアスといういわゆる「勘違い」を起こしやすいデメリットがある一方で、全体的に捉えた上ですばやく判断することができます。思考は、認知バイアスが少ないというメリットがある一方で、局所的な思考になりやすく、かつ、素早く判断することができません。また、前提となる情報が正しくないと、正しい判断ができないというデメリットもあります。

不確実性が高まる環境においては、直感の活用が有効となることが、最近の研究では示されています。(「世界標準の経営(入山章栄著)」にその概要がわかりやすく説明されていますので、ご興味のある方は是非)

ここまで直感活用の重要性についてお話しをしてきましたが、ビジネスの場面においては、まだまだ思考優位な世界観が主流ではないかと思います。事業計画を策定するときには、関係者にわかりやすく説明する必要があるため、どうしても思考意識中心に考えてしまいがちです。

思考意識を用いることはもちろん大切ではありますが、それだけに頼るのではなく、直感を活用することも大切であるということ、そして、戦略ストーリーにおける価値創造プロセスの始まりは直感活用であること、をこの記事ではお伝えいたしました。

次回は、直感活用について具体事例を用いながら、お話ししたいと思います。

落合文四郎blog
2021.11.04