COLUMN コラム

戦略コンセプトはどのように生み出されるのか?

落合文四郎
Alue co.jp CEO
2021.10.29

前回の記事では、戦略ストーリーに一貫性をもたらすにはコンセプトが必要であり、コンセプトは自分たちは何者かというアイデンティティと、顧客にどのような価値を提供するかというコアバリューから構成されるという話をしました。

今回の記事では、コンセプトはどのように生み出されるのかを考えたいと思います。

ヴィジョンとコンセプトは表裏一体のもの
まず、コンセプトとヴィジョンの関係について考えたいと思います。ヴィジョンとコンセプトは表裏一体のものであり、切っても切り離せないものになるからです。

当社の例でいえば、当社の2025年ヴィジョンの1つとして以下を掲げています。

「育成の成果にこだわる」を基本コンセプトとして、国内大企業育成マーケットにおけるトッププレイヤーになっている

当社のヴィジョンの中には、「育成の成果にこだわる」というコンセプトが明示的に含まれています。ヴィジョンには、必ず明示的にコンセプトが含まれていなければいけないというわけではありませんが、ヴィジョンとコンセプトはお互いに密接に関わっています。

ヴィジョンとコンセプトの関係は、「コンセプトを具現化し続けることで、ヴィジョンの実現につながる」という関係になっています。当社の例でいえば「育成の成果にこだわる」ということを体現し続けることによって、国内大企業育成マーケットのトッププレイヤーという将来像につながるという関係です。

ヴィジョン(将来像)

↑(具現化し続ける)↑

コンセプト

アイデンティティ(自分たちは何者か) 

コアバリュー(顧客にどんな価値を提供するか)

いいコンセプトは、世の中の「意識の偏在の解消」に結びつく
いいヴィジョンの要件の一つとして「意識の変容を伴う」ということをヴィジョンの章の記事でお伝えしました。そして、その変容が、世の中の意識の偏在を解消するという大きなレベルのものになっているときに、ヴィジョンが大きなインパクトをもたらすことをお伝えしました。

過去記事:「インパクトを生み出すヴィジョンの本質は何か?(いいヴィジョンの要件③)」

ある事象の背景には、それを具現化している意識とエネルギーの流れがあります。ある現実が理想とはギャップのあるものだった場合、その背景にある意識も、本来あるべき流れではなくなっていると考えます。それが「意識の偏在」です。

いいヴィジョンは、この「意識の偏在の解消」につながっているということを上記の記事でお話ししています。

コンセプトとヴィジョンは表裏一体のものですから、いいヴィジョンが「意識の偏在の解消」に結びつくことと同様に、いいコンセプトも「意識の偏在の解消」に結びついています。

再びスターバックスを例に説明します。サードプレイスというコンセプトが発想される前は、いわゆるファーストプレイス(自宅)とセカンドプレイス(職場)の往復が、多くの人々の日常でした。人々の意識としてはこの現実を当然のものとして受け入れていますが、本来の人間らしい生活はどうありたいかということについての世の中全体の意識の流れとはギャップがあるかもしれない。この気づきがスターバックスが注目した「意識の偏在」です。

この気づきを元に、顧客の観察と対話を繰り返す中で、サードプレイスというコンセプトが誕生したのだと思います。

ヴィジョンとコンセプトの構想プロセスは同じ
コンセプトを構想するより詳細なプロセスは、ヴィジョンの構想と同じです。ヴィジョンとコンセプトは同時に構想されることも多いと思います。状況や文脈によっては、ヴィジョンとコンセプトのどちらかだけを構想する場面もあると思います。

ヴィジョンの構想プロセスについては、以下の記事ならびにそれに続く一連の記事をご覧いただければと思います。

過去記事:「ヴィジョン構想のはじめの一歩は何か?(ヴィジョン構想のプロセス①)」

これらの記事をまとめるとヴィジョンの構想プロセスは以下となります。

ヴィジョンの構想プロセス
① 主体的真理から始める
② 意識の自然な流れと、意識の偏在のギャップに注目する
③ 問いを立て、直感を活用する
④ 対話とマッシュアップによって、ヴィジョンを共創する

コンセプトについての構想プロセスもこれと全く同じになります。

コンセプトの構想プロセス
① 主体的真理から始める
② 意識の自然な流れと、意識の偏在のギャップに注目する
③ 問いを立て、直感を活用する
④ 対話とマッシュアップによって、コンセプトを共創する

詳細な内容については、ヴィジョン構想プロセスと殆ど同じになりますので割愛しますが、当社においてサービスコンセプトを生み出した事例を一つご紹介することで、この構想プロセスの具体的なイメージをもって頂ければと思います。

当社の創業時のコアプロダクトは「100本ノック」という研修プログラムでした。これは「習うよりも慣れろ」というコンセプトを具現化したものであり、研修時間においてインプットの時間を最小化して、アウトプットしながら学ぶ時間を最大化するような構成になっています。

「習うよりも慣れろ」というコンセプト、そして「100本ノック」という商品名は、創業期においてお客様・社内メンバーの共感を得ることができ、当社の創業期の成長の原動力となりました。

これらのコンセプトが当社の中でどのように生み出されたかをご紹介したいと思います。

① 主体的真理から始める

当時の我々の思いは、「社会の発展に貢献する次世代のパイオニア人材の育成に寄与する」というものでした。

パイオニア人材というと、「一部の優秀な人たちの育成」という印象があるかもしれませんが、そうではなく「誰でもパイオニア人材になれる」という前提を持っていました。100本ノックが生まれてくる前提として「誰でもやればできる」という強い信念がありました。

② 意識の自然な流れと、意識の偏在のギャップに注目する

当時の研修スタイルは、講師が一方的に話をして、受講生はその内容を静かに聞くというものが主流でした。そして、それが当時としては「当たり前」の研修スタイルでした。

しかし、私たちは、ここに疑問を持ちます。わかることと、できることにはギャップがあるのではないか、そして、そのギャップが埋まらないと、実際の仕事における成果に結びつけることができないのではないか。

また、自分たちでセミナーを実施する経験から、受講生はただ聞いているだけよりも、発表をした内容に対して講師からフィードバックをもらったり、受講生同士でディスカッションしたりするような、アウトプットする場に価値を見出していることを感じていました。

そのような経緯から、「講師が一方的に話す研修スタイル」という意識の偏在に注目したのです。

③ 問いを立て、直感を活用する

「では、どのような研修であれば、受講生がより楽しく取り組むことができ、実際の仕事における成果に結びつくか」という問いが立ちます。

問いと子供

そのような問いに対して、思い浮かぶ内容は、創業メンバーそれぞれの前職であるコンサルティング会社の経験でした。コンサルティング会社においては、アウトプットした内容に対して先輩コンサルタントからたくさんのフィードバックをもらいます。

このフィードバックをもらいながら、自分のアウトプットを改善していくことで、お客様に提示する成果物に昇華されますし、自分の成長にもつながります。要は、アウトプットすることによって、学んでいたのです。

また、私個人は、大学時代に打ち込んだテニスの経験を思い浮かべました。とても緊張する試合において、自信をもってプレーするためには、練習において100回繰り返し再現できるようなショットを身につけておかなければいけません。このためには、徹底的な反復練習が必要となります。

④ 対話とマッシュアップによって、コンセプトを共創する

問いに対する気づきや直感を、創業メンバー3人で共有して、対話とマッシュアップをしていきます。「わかるとできるのギャップ」、「反復練習が必要」、「アウトプットとフィードバック」、このようなキーワードをホワイトボードに書き出しながら話し合いました。

その中で、3人の誰かがふと「これ、100本ノックじゃない」と言ったときに、頭の中で衝撃が走るような感じを受け、3人がそれぞれの目を見合わせて、「おおー、これだーーー!!」と意気投合したことを昨日のことのように覚えています。

ここまで当社の事例を用いながら、コンセプトが生み出されるプロセスを概観しました。

コンセプトを生み出すことは簡単ではありません。このプロセスを経れば必ず見つかるという類のものでもありません。それは試行錯誤の繰り返し、悶々とする日々の連続という中で、「幸運なことに、あるとき、ふと気づく」というイメージのものかと思います。

ただ、何の準備もなく「幸運なことに見つかる」というものではなく、上記に記載したプロセスを踏みながら、「人事を尽くして天命を待つ」という感じに近いのではないかと思います。

落合文四郎blog
2021.10.29