COLUMN コラム

いい戦略とは何か?

落合文四郎
Alue co.jp CEO
2021.09.27

前回の記事では、いい戦略を理解することと、いい戦略をつくることにはギャップがあることと、そのギャップを乗り越えるためには、戦略をつくるときの意識を意識化することが大切であることをお伝えしました。

今回の記事では、戦略をつくるときの意識の意識化の一歩手前として、その前提となる「いい戦略」について考えたいと思います。

戦略の中でも、ここからは経営における「競争戦略」という領域に絞ってお話ししたいと思います。戦略という概念は、競争戦略以外にも、マーケティング戦略、財務戦略、キャリア戦略など、いろいろな分野に活用することができるものではありますが、その全てを包含する形でお話しをすると抽象的になり過ぎてしまいますので、ビジネスにおいてよく語られることが多い競争戦略をテーマとして取り上げます。

いい戦略は、ストーリーである
こちらのチャートをご覧ください。これはある会社の戦略を表現したものですが、どの会社のものかわかりますか?

有名なチャートですので、どこかで見たことがある人が多いのではないでしょうか。

これは、アマゾンの創業者ジェフ・ベゾスが、食事中に紙ナプキンの上に書いたものだと言われています。そして、これは今でも「お客様に焦点をあてた善の循環」というコンセプトでアマゾンの一部に生き続けています。(アマゾンHPより

いい戦略は、ストーリーとして語られます。ストーリーとは、固有の意思をもったステークホルダーが織り成す物語です。そのストーリーには、次のような要素が含意されます。

①ステークホルダーの生き生きとしたストーリー
戦略をストーリーで語ることによって、そこにはその企業だけではなく、お客様や取引先や従業員などのステークホルダーが生き生きと関わり合っている姿が浮かんできます。
→アマゾンの例では、お客様がたくさんの品揃えの低価格の商品から選べるという喜びを感じますし、お客様のトラフィックが増えてることによる売り手のやりがいを感じます。また、その中心にあるGrowthという部分には、会社の成長や社員の成長機会というニュアンスも感じ取ることができますね。

②発展性のある動的なストーリー
戦略をストーリーで語ることによって、戦略が静止画ではなく、発展性のある動的なストーリーになります。ある一時点の理想像を描くだけではなく、理想像にどのように近づいていくのかについての発展ストーリーが描かれます。
→アマゾンの例では、循環として表現されることによって、規模が小さい状態で始まった顧客と売り手の関わりから、顧客が売り手を呼び、売り手が顧客を呼ぶような循環と、規模の拡大によってコストが下がっていく構造によって、顧客と売り手の双方にとって価値が高まっていき、発展していく様子が描かれています。

③蓋然性のあるストーリー
蓋然性とは一言で言えば確からしさのことを表します。いい戦略は、蓋然性のあるストーリーで語られます。一つひとつの要素や、そのつながりに無理がない一方で、全体として大きな価値と差別化を実現するようなストーリーになっています。
→アマゾンの例では、一つひとつの要素や要素間のつながりに無理がありません。例えば、TrafficとSellersのつながりでいえば、顧客のトラフィックが増えれば、売り手にとってさらに魅力的なマーケットとなり、売り手が増えていくということは、とても確からしく感じますね。一つひとつの繋がりに無理がないにも関わらず、このチャート全体でみると、これまでどの会社も実現することができなかったような価値と差別化を実現するストーリーになっています。

このようにいい戦略とは、次のような要素を満たすストーリーであると私は考えます。

①ステークホルダーの生き生きとしたストーリー
②発展性のある動的なストーリー
③蓋然性のあるストーリー

ここで、前回の記事でご紹介した戦略の定義に立ち戻ってみましょう。

戦略の定義(落合の考え)
蓋然性と発展性のあるヴィジョン(将来像)の実現ストーリー
※ストーリーとは、固有の意思をもったステークホルダーが織り成す物語

実は、この定義は、いい戦略の3つの要素を満たすということを先取りした内容になっています。このような定義にした背景として、いい戦略の3つの要素があることは言うまでもありません。

驚き3

儲かるとはどういうことか?
企業経営において儲かることは大切なことです。儲かることは目的ではなくても、目的を実現するために儲かることは必須要件であると言えるでしょう。

競争戦略を考えると言うことと、儲かるということは表裏一体の関係にあります。ですから、競争戦略を考える前提として、儲かるとはどういうことかを的確に捉えておく必要があります。

儲かる、すなわち、利潤を得るということは、完全競争という状態から離れることであると言えます。

完全競争においては、企業の超過利潤はゼロになってしまいます。完全競争になると、どの企業も儲けることはできません。儲けることができないということは、その企業は中長期的に存続することは難しい状況になります。

完全競争というのは、次のような5つの条件が満たされた状態のことを指します。

儲けることは、完全競争の5つの条件から離れた状態をつくることと言うことができます。もっと端的に言ってしまえば、儲けることは、(顧客が価値を認める前提のもとで)他社との違いを作ること、と言ってもいいでしょう。

違いを作って、つなげるストーリー
ここまでの内容から、競争戦略とは、「違いを作って、つなげるストーリー」ということができます。これは、『ストーリーとしての競争戦略』(楠木建)という書籍の中で述べられている競争戦略の定義です。この書籍は、戦略をストーリーとして捉えることの意義とその方法論を描いた秀逸なものと私は思います。

この書籍においては、「違い」のつくり方、すなわち競争優位のパターンとして、4つの段階があることを示しています。(以下は本の要約となりますので、読んだことのある方は飛ばして構いません。また、詳しく知りたい方は本を読まれることをお勧めします)

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『ストーリーとしての競争戦略』では、戦略とは「違いを作って、つなげる事」と述べられています。多くの業界には競争が存在し、利益を得るためには競争に勝つ必要があります。そのためには、競争相手と「違い」をつくらなければいけません。その道筋が戦略というわけです。

レベル1:業界の競争構造(ファイブフォースモデル)
マイケル・ポーターのファイブフォースモデルでは、産業の収益性は、5つのフォースで規定されます。この構造が不変であれば、現状の競争優位性が持続すると考えます(が、今日の世の中ではそのような産業は少ないと見る方がいいでしょう)

レベル2:ポジショニング(SP)と組織能力(OC)
ポジショニング(Strategic Positioning)とは、市場における競争環境の中で、他社と違うところに自社を位置付けること。
組織能力(Organizational Capability)とは、他社が簡単には真似できない経営資源によって違いをつくること。組織文化やオペレーションシステムなどを源泉とする差別化。

レベル3:戦略ストーリー
戦略要素となる価値や資産を組み合わせてストーリーにする。優位性持続のポイントは、「一貫性」、「交互効果」(要素となる価値・資産同士のつながりの強さ、組み合わせの数の多さ)、「資産蓄積効果」(やればやるほど蓄積する資産(顧客・人的ネットワーク・ブランド・データなど)によるプラスの効果)。

レベル4:クリティカル・コア
一見不合理だが、ストーリー全体としてみると合理性を獲得する要素。「模倣する動機の不在」によって競争優位性が持続する。

レベル3の戦略ストーリーの例としては、アマゾンとスターバックスが挙げられています。価値の連鎖がストーリーとしてつながり、他社との違いを生み出すことができています。

この2社の戦略ストーリーが優れているのは、
・強さ=各構成要素の因果関係の確からしさ
・太さ=多くの構成要素が絡まり合っている
・長さ=因果関係のステップの多さ
の3つを備えているからです。

レベル4のクリティカル・コアは、アマゾンの例では「自前の物流センター」、スターバックスの例では「直営方式」です。いずれも、自社にとって、リスクを抱えることになりますし、スピード感も落ちるという意味では、「一見して不合理」な打ち手です。

ですが、戦略ストーリー全体で見ると、合理的な価値の連鎖につながっています。クリティカル・コアは、競合からすると要素単体では模倣する動機すら起きないため、非常に強い競争優位の源泉となります。
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以上は内容のほんの一部に過ぎませんが、これだけでも本書がいかに画期的か伝わると思います。「いい戦略」の要素を明らかにするだけでなく、時間軸や因果といった動的な視点(=ストーリー)で読み解かれています。

驚き

ストーリーを生み出すストーリーが必要
いい競争戦略は、違いを生み出すストーリーであるということをお伝えしてきましたが、意識の意識化の観点から言えば、まだ不十分であると考えています。

何が不十分かと言えば、「では、このようなストーリーをどのように生み出していけばいいのか」についてまだ答えられていないからです。

冒頭にジェフ・ベゾス氏が書いた創業当時のアマゾンの戦略ストーリーをご紹介しましたが、ジェフ・ベゾス氏はそれを紙ナプキンに書いたと言います。それは、その瞬間に突然思いついたものなのでしょうか?部分的にはそのような要素はあったのかもしれませんが、全てをゼロからその場で発想したということは考えにくいのではないでしょうか。

それまでの流れで、何らか着想していることがあって、それが言語化・図示化されて「紙ナプキン」に書かれたと見る方が自然でしょう。そこには、いい戦略を生み出す、ミクロ的・原因的・微分的な流れがあったはずです。

このように、いい戦略はどのようなものかがわかったとしても、それはまだマクロ的・結果的・積分的な要素が強く、いい戦略を生み出す体内感覚、というレベルのミクロ的・原因的・微分的な視点にまで接続できていないという問題意識があります。

いい競争戦略のストーリーを生み出すストーリーが必要なのです。この点について、次回からお話していきたいと思います。

落合文四郎blog
2021.09.27