COLUMN コラム

インパクトを生み出すヴィジョンの本質は何か?(いいヴィジョンの要件③)

落合文四郎
Alue co.jp CEO
2021.07.15

前回の記事では、いいヴィジョンの要件の1つとして、「野心ではなく志」であることと、「内なるエネルギーと志の両立」が大切であること、についてお話ししました。

今回の記事では、いいヴィジョンの要件の最後のポイントについてお話します。この要件は、ヴィジョンの中でも、変革を推進するような大きなインパクトをもたらすヴィジョンについて特に当てはまります。

いいヴィジョンが生み出される本質
いいヴィジョンあるいは、いいミッションと言われる、事例を考えてみましょう。この事例の中には、ミッション(コミュニティや個人が永続的に追求し続ける目的)として表現されているものもありますが、今回お伝えする内容に関しては、ミッションであっても、ヴィジョンであっても大きな差異はありません。

いつの日か、私の4人の子供たちが、肌の色で判断されるのではなく、人格の中身で判断されるような国に住むという夢があります。
(米国の公民権運動の指導者 マーティン・ルーサー・キング・ジュニア)

「Google の使命は、世界中の情報を整理し、世界中の人がアクセスできて使えるようにすることです」
(Google社)

「包括的な金融サービスを提供することで、貧困に苦しむ人々が自らの可能性を実現し、貧困の悪循環から抜け出すことができるようにします」
(グラミン銀行)

みなさんもこれらのヴィジョンやミッションを一度は聞かれたことがあるのではないでしょうか。どのヴィジョン・ミッションも、非常に魅力的であり、多くの人の力を結集するエネルギーを持っていることを、肌身で感じることができます。

いよいよ核心に迫ります。いいヴィジョンの要件の1つは、「意識の変容を伴う」ということです。「意識の変容を伴う」とはどういうことか、具体事例を用いながら、説明したいと思います。

「いつの日か、私の4人の子供たちが、肌の色で判断されるのではなく、人格の中身で判断されるような国に住むという夢があります」
→肌の色で判断されてしまう場面が多くあるという現実を受け入れてしまっている米国社会全体の意識を、上記の夢で記述されている世界を当たり前とする意識に変容することを訴えています

「Google の使命は、世界中の情報を整理し、世界中の人がアクセスできて使えるようにすることです」
→世界中の情報を整理することは難しい、あるいは、そのような情報にアクセスすることは一部の限られた人はできても、全員がアクセスすることは難しいという固定概念を打ち破ろうとすることが含意されています

「包括的な金融サービスを提供することで、貧困に苦しむ人々が自らの可能性を実現し、貧困の悪循環から抜け出すことができるようにします」
→金融サービスは富裕層を中心としたものであり、貧困に苦しむ人々はサービスを受けることは難しく、貧困から抜け出すことは難しいという現実を受け入れてしまっている意識を、貧困に苦しむ人が利用できる金融サービスによって、貧困の悪循環から抜け出すことは可能だという意識に変容することが含意されています

このように、これらのヴィジョンに共通する要素として「社会全体、あるいは、多くの人の意識の変容」が含意されていることがわかります。

ここで挙げた3つの事例は、社会全体に大きなインパクトをもたらした例として挙げていますので、常識(社会において人々が共通に持っている、あるいは持つことが期待される知識や価値観)が変わるほどの多くの人の意識変容が含意されています。

しかし、ヴィジョンを掲げる時に、常に、常識が変わるほどの多くの人の意識変容が意図されなければいけないかと言えば、そうではありません。

例えば、業界における常識を変えていく、という会社や事業としてのヴィジョンの掲げ方もあるでしょう。部署や社内プロジェクトにおけるヴィジョンの掲げ方として、「社内のXXという常識・固定概念を変えていく」という意図もありえるでしょう。

このように、想定する対象の広さはヴィジョンを掲げる主体となる人や組織の意思によりますが、ヴィジョンに込められた意図として「意識の変容」が含まれていることが、いいヴィジョンの要件の一つとなります。

なぜ、意識の変容を伴うことが重要か?
なぜ、「意識」の変容が、いいヴィジョンとして重要なのでしょうか。それは、現象の根源は意識にあるからです。

現象

現象の構造・背景

行動

決断

思考・感情

メンタルモデル(信念体系)

直感(主体的真理)

自己(自意識の主体)

以前の記事でもご紹介しましたが、さまざまな現象の原因には行動があり、その原因には決断があり、その原因には思考・感情があり、その原因にはメンタルモデルがあります。端的に言えば、現象の原因には意識があります。

いいヴィジョンは、現象としての将来像が語られるだけではなく、その現象の原因となる意識についての変容が含意されているのです。

意識についての変容が含意されることによって、その意識変容がもたらされる現象が、より大きなインパクトをもつものになります。現象そのものが変わることよりも、現象の原因となる意識が変わることの方がインパクトが大きいのです。

仮にGoogle社のヴィジョンが「検索を便利にする」というものであったらどうかを想像してみるとよいでしょう。「検索を便利にする」というヴィジョンであったとしたら、GmailやYoutubeなどのサービスを手がけている今のGoogleがあるとは思えませんね。

意識の変容を含意することによって、より大きなインパクトをもつヴィジョンになるだけではなく、一人ひとりの主体的真理との重ね合わせができる広がりや奥行きをもつことができます。

これも、現象の原因となっている意識の変容を伴っているため、結果的に現れると想定される事象に広がりがあり、一人ひとりの主体的真理との接点を見出しやすいのです。

例えば、「貧しい人の暮らしを良くする」ことを主体的真理にする人がいたとしましょう。

Google社のヴィジョンが、もし「(A)検索を便利にする」だったときと、「(B)Google の使命は、世界中の情報を整理し、世界中の人がアクセスできて使えるようにすることです」だったときに、この人がどのように思うかを比較してみると良いでしょう。

「(A)検索を便利にする」だった場合、「それは豊かな人のための話であって、貧しい人はそもそも情報を検索できるような環境にない」と思うかもしれません。このような場合、この人がGoogle社のヴィジョンと自分の主体的真理のつながりを感じることは難しいでしょう。

しかし「(B)世界中の人がアクセスできる」というヴィジョンであれば、「貧しい人にとって、市場で売買されている品物の価格を知ることができること」はとても重要なことであり、自分の主体的真理との一致点を見いだすことができるかもしれませんね。

このように、意識の変容を含意することによって、大きなインパクトをもつヴィジョンになると共に、一人ひとりの主体的真理との重ね合わせができる広がりや奥行きをもつことができるため、結果として、そのヴィジョンは「多くの人にとっての自分ごと」になっていくのです。

いいヴィジョンの要件のまとめ
この記事では、いいヴィジョンの要件の3つ目として、いいヴィジョンは意識の変容を伴うということについてお話ししました。最後に、これまでの記事で取り上げてきた、いいヴィジョンの3つの要件をまとめましょう。

いいヴィジョンの(原因的)要件
▼【主体的真理とのつながり】自分の、そして、チームメンバーの主体的真理とつながっており、内なるエネルギーが引き出されている
▼【野心ではなく志】自分のためだけ(野心)ではなく、自分を含めた周囲の人のため(志)になっている。そして、内なるエネルギーと志が両立している
▼【意識の変容を伴う】現象面の変化だけではなく、意識の変容を含意している

落合文四郎blog
2021.07.15