COLUMN コラム

自己信頼が、人との関係性に与える影響とは?

落合文四郎
Alue co.jp CEO
2021.06.04

前回の記事では、自己信頼は他者信頼を生み出すこと、そして自己信頼と他者信頼があることによって課題を直視できたり、主体的真理をぶつけ合って創造的な活動につなげることができたりすることをお話ししました。

今回の記事では、自己信頼と他者信頼があることによって、人との関係性がどのように変わるのかについてお話しします。

信頼があると、縦の関係ではなく横の関係となる
自己信頼と他者信頼があると、人との関係性の質感が変わります。それは、「縦の関係」ではなく、「横の関係」になるということです。これはアドラー心理学でも言及されている内容になります。

「縦の関係」というのは、地位や能力や経験などの何らかの基準によって、上下の違いが意識的あるいは無意識的に規定されている関係性です。「横の関係」というのは、そのような基準による上下の違いはなく、お互いの存在や個性や主体的真理を尊重する対等な関係性です。

縦の関係(落合の定義):
地位や能力や経験などの何らかの基準によって、上下の違いが意識的あるいは無意識的に規定されている関係性

横の関係(落合の定義):
お互いの存在や個性や主体的真理を尊重する対等な関係性

この定義を見てもわかるとおり、縦の関係は何らかの基準による判断がありますから条件付きの信用がベースとなっており、横の関係は無条件の信頼がベースになっています。

「縦の関係」ではなく「横の関係」が築けるようになると、いいことがたくさんあります。

横の関係は、無条件の信頼がベースになりますので、自分は自分らしく、相手は相手らしくいることができます。そして、以前の記事でも書いた通り、お互いに信頼があることで、課題を直視することができたり、お互いに主体的真理をぶつけ合うことができたりするので、新しい価値が生み出しやすくなります。

ここで大切なことは、縦の関係と横の関係は、体感覚が全く異なるということです。縦の関係はどこかに外部の基準に合わせていく要素を含み、自然な自己表出が難しいことが多くなります。端的にいえば「自分らしくある」ことのハードルがあります。横の関係は、自然と「自分らしくある」ことができますし、相手も「その人らしくある」ということができます。

私の個人的な感覚としては、横の関係は幼馴染の友人との関係というイメージです。私は、大変有難いことに今でも、小学校の同級生とSNSでやりとりをしたり、一緒にテニスをしたり、食事をしたりということがありますが、会うたびにいつも、幼馴染特有の暖かい、安心・安全な感覚を持ちます。

それは、今どのような仕事をしているとか、肩書きをもっているということは関係なく、幼馴染の友人としてお互いを尊重して、信頼し合っている感覚です。私の幼馴染である山田くんは、どんな仕事をしていても、何歳になっても、やっぱりあの山田くんです。

幼馴染との関係性を、仕事における人間関係と一緒に語ることに違和感を覚える人もいるかもしれません。

仕事における人間関係は、上司や部下、部署同士の関係、顧客とベンダーという具合に、何らかの基準や慣習によってすでに規定されている場合が多くあります。そのような環境の中では、私たちがどのような関係性を個人的に望んでいたとしても、すでに規定されている関係性を壊さない振る舞いをすることが必要となるでしょう。

上司や部下の関係性で言えば、仕事の役割という意味での上下関係があることは確かです。そのような中では、部下は一定程度で上司の指示に従うということが求められます。

顧客とベンダーの関係性で言えば、上下関係ではありませんが、顧客の期待にベンダーが応えることで、顧客から対価をもらうという関係性が規定されていることが多いでしょう。そのような中では、ベンダーとして顧客の期待に応えることが求められます。

このような役割上の関係性を円滑に保つことは大切であることは言うまでもありません。しかし、役割上の関係性を円滑に保つというところにとどまらず、「横の関係性」もあった方がいい、というのが私の立場です。

職場において、すべての人と横の関係を築くというのは難しいことかもしれません。自分が横の関係を築きたいと思っていても、相手は縦の関係を前提としたコミュニケーションをとってくる場合もあるでしょう。それでも、私は職場においても、自己信頼と他者信頼をベースとした横の関係を基本とすることをお勧めします。

すべてうまくいくという話ではありませんが、そのような信頼関係を築くことができる人が1人でも2人でも増えていくことが、職場で仕事をすることの楽しさ、充実感につながることは間違いないですし、前回の記事でお話しした通り、関係性の話だけではなく、仕事の質や成果という面でもポジティブな影響があります。

横の関係性があると、自分らしくいられる
先ほど、横の関係性が築けると、自分らしくいることができると言いましたが、もう少し詳しくお話ししたいと思います。

横の関係性とは「お互いの存在や個性や主体的真理を尊重する対等な関係性」ということですから、本来の自分をだしても大丈夫であるという安心感が自他共にある状態です。

人は、本来の自分の性格(キャラクター)に対して、役割性格(ペルソナ)と言われる社会適合のための性格を持っています。これはいい・悪いという話ではなく、多かれ少なかれ、殆どの人が持っています。

キャラクター
・ラテン語で「刻み込まれたもの」という意味
・本来の自分の性格
・もって生まれた先天的なもの

ペルソナ
・ラテン語で「仮面」という意味
・役割性格
・環境や役割に応じたもの

これは、白黒はっきりするような類の話ではなく、程度の問題です。キャラクターをどの程度まで自然とだすことができているか、ペルソナという鎧によって自分をガチガチに固めすぎていないかということがポイントになります。

横の関係性が築けることによって、キャラクターを自然とだすことが多くなり、ペルソナで自分を包み込む必要性が少なくなるので、自然で、楽な状態で過ごすことができます。

特に、対人関係に苦手意識がある方は(自分もその一人です)、このキャラクターとペルソナという両面があることを知ると共に、キャラクターがどのくらい自然と発露しているかに意識的になることで、自分を楽にすることができます。

ここで、疑問を持たれた方もいらっしゃると思います。「自分は横の関係を築きたいと思っていても、相手が縦の関係を求めてくる場合は、どうすればいいのか」という疑問です。

このような場面においては、自分がいくら横の関係を築こうと思っていても、自然で楽に自分らしくあるということは難しいかもしれません。ペルソナで自分を包み込む必要性がでてくる場面もあるでしょう。

この話は、別の記事でしっかりと扱いたいと思いますが、結論からいえば、アドラー心理学で言われる「課題の分離」が必要になります。「縦の関係性を求めてくるのは、自分の課題ではなく相手の課題なので、気にしないようにする」という姿勢です。

「え、そんなに簡単にわりきれない」という方もいらっしゃると思います。しかし、この課題の分離という感覚に慣れてくると、自己信頼と他者信頼をベースとして横の関係性を築こうとすることが自分の課題であり、他者がどのような関係性を求めてこようとも、自分は自分らしくあるという姿勢に近づくことができます。

横の関係性が築けると、部下がイキイキとする
皆さんのこれまでの上司の方を思い浮かべてください。あるいは、学校の先生や部活の先輩など、役割上の上下関係があった人を思い浮かべて頂ければと思います。

その人たちの中で、皆さんを含めた人との関係性を、「縦の関係」で捉えていた感じがする人は思い浮かびますか?また、「横の関係」で捉えていた感じがする人は思い浮かびますか?

そして、「縦の関係」を志向する上司の人と、「横の関係」を志向する上司の人の印象はどのように違うでしょうか?私の感覚では、次のような違いがあります。

「縦の関係」を志向する上司
・その上司の前では、基準や規範を満たすことの必要性を感じる
・基準や規範の前提となることについては、言いだしにくい雰囲気がある
・部下としての役割期待を満たせば、認めてもらえる感じがする

「横の関係」を志向する上司
・何でも相談できる、何でも意見具申できる雰囲気を感じる
・部下である前に、ひとりの人として尊重されている感じがする

ここで申し上げたいことは、部下の立場からすると、上司が「縦の関係」を志向しているか、「横の関係」を志向しているかは、明確に察知することができるということです。

上司の「横の関係」の志向性を感じ取ることができた部下は、安心して、自分の個性をだしていくことができます。そして、イキイキと働くことができます。また、上司としても、部下からのいろいろな意見を吸収することができます。全てが的を射ているとは限らないものの、その中には上司である自分も気づかなかった新しい視点が含まれていることもあるでしょう。

上司・部下というのは、役割上は縦の関係性ですが、人間関係という意味においては自己信頼と他者信頼をベースとした「横の関係性」を築くことをお薦めします。これは、自己信頼という奥深い概念がベースとなりますので、簡単に実現するものではないかもしれませんが、少しずつその状態に近づいていく努力は、必ずや報われる時が来るでしょう。

家族を横の関係で捉えてみる
最後に、家族についてお話ししたいと思います。当たり前の話ではありますが、家族には親子の関係、夫婦の関係、兄弟姉妹の関係など、血縁上で規定されている関係性があります。

また、多くの場合、「親子関係はこのようなもの」「夫婦関係はこのようなもの」という関係性についてのイメージを個々にもっています。

家族の関係性についても、「縦の関係」で捉えているか、「横の関係」で捉えているかということを意識化してみると気づきがあるかもしれません。

私の場合は、家族との関係性を「横の関係」で捉えられているときは、家族円満に過ごせています。ただし、何かのきっかけで「縦の関係」が混ざってきてしまうときに、関係性がうまくいかないことがあります。そのような時は、自分が家族との関係性を横と縦のどちらで捉えているかについて意識化するようにしています。

今回の記事では、自己信頼が、人との「横の関係性」を育み、自分は自分らしく、他者もその人らしくいられるようになるということをお話ししました。

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2021.06.04