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自己信頼とは何ではないのか?

前回の記事では、自己信頼は無条件に自分を信じることであり、条件付きで自分を信じる自己信用とは異なることをお話ししました。また、条件付きの「自己信用」ばかり積み重なると、かえって自分を見失いやすいということもお伝えしました。
今回の記事では、自己信頼とは何ではないのか?について引き続きお話しすることによって、自己信頼についてさらに深くお伝えしていきます。
自己信頼は、自己効力感とは異なる
自己信頼と似て非なるものとして、自己効力感(Self-Efficacy)があります。自己効力感は、カナダ人心理学者アルバート・バンデューラが提唱した概念で次のように定義されています。
自己効力感(Self-Efficacy)の定義:(下記の文献を元に落合が意訳)
人生に影響を与える出来事について、望ましいレベルの成果や達成を生み出すために、自分の力を発揮できるという信念
(Bandura, A. (1977,1994) Self-efficacy.)
自己効力感とは、平たく言えば、ある問題や課題を解決できるという信念です。ポイントとしては、ある状況において成し遂げたいことを想定していることです。
私の例でいえば、2020年のパンデミックにおいて、当初は先行きが見えず、自分ではコントロールができないことが多いように思える瞬間もあり自己効力感が低い状態でしたが、しばらくして、自分の捉え方を変えたり、いくつかの方策を打ち立てて実行した結果、うまくいくことも多くなるにつれて、自己効力感は増していきました。
この例でわかるように、自己効力感は想定する状況が変わったり、同じ状況であっても自分の状態が変わることによって、高まったり、低まったりします。
状況によって、自己効力感が変わるということは、自己効力感は条件付きの認知だということです。ここが自己信頼との違いの1つです。
また、自己効力感は、「事をうまく成し遂げることができるかどうか」という観点で判断をしています。一方で、自己信頼というのは、良いとか悪いとかではなく、ありのままの自分をそのまま捉えるということであり、判断という要素がありません。
自己信頼は、自己肯定感とも異なる
もう一つ、自己信頼と似て非なる概念として、自己肯定感があります。これは心理学において昔から議論されている概念で、次のように定義されます。
自己肯定感(Self-Esteem)の定義:(下記の文献を元に落合が意訳)
自分自身に対して抱いている総合的な価値判断
(Coopersmith, S. (1967). The antecedents of self-esteem.)
※自己肯定感は自尊感情と呼ばれることもある
自己肯定感の定義は様々であり、定まっているものがあるわけではありませんが、古典的な定義の1つが上記のものです。自己効力感は、ある状況において実現したいことを想定していますが、自己肯定感はそのように想定している状況はなく、いろいろな状況や側面を総合的に判断して、自分を肯定的に捉えることができることを指します。
自己効力感と比べて、具体的な状況を想定するものではないという意味において、条件付きというよりは無条件に近い感じがしますが、それでも、良し悪しという価値判断している点では、自己効力感と似ており、自己信頼とは異なります。
自己信頼は、自己有用感とも異なる
最近、日本の学校教育では自己有用感という言葉も使われているようです。文部科学省国立教育政策研究所が、自己肯定感とは異なる概念として、自己有用感という概念を打ち出しています。(詳細はこちら)
自己有用感(Self-Esteem in social context)の定義:(英語は落合が意訳)
自分と他者(集団や社会)との関係を自他共に肯定的に受け入
れられることで生まれる、自己に対する肯定的な評価
(文部科学省国立教育政策研究所)
自己に対する肯定的な評価であることは自己効力感や自己肯定感と同じですが、自分と他者との関係性を起点しているところが、それらの2つの概念とは異なる点です。
自己有用感というのは、個性性・集団性という基軸において、集団性の性向が強い日本社会において、特徴的な概念だと思います。みなさんも感じられている通り、何らかの基準で良し悪しを判断しているものという意味では、自己効力感や自己肯定感と同じであり、自己信頼とは異なります。
自己信頼は、自己受容と近い
自己XX感というのは、他にもありますが、その全てが自己信頼とは異なるのかという言えば、そうではなく、自己信頼に近い概念もあります。それは、自己受容という概念です。
自己受容は、ポジティブ心理学において盛んに議論されている内容であり、次のように定義されています。
自己受容(Self-Acceptance)の定義:
個人が自分に関することをポジティブにもネガティブにもすべて受け入れること
(Morgado, F. F. da R., Campana, A. N. N. B., & Tavares, M. da C. G. C. F. (2014). Development and Validation of the Self-Acceptance Scale for Persons with Early Blindness)
自己受容の特徴は、ポジティブなこともネガティブなことも受け入れるということにあります。受け入れるということに良し悪しの判断はありません。あるがままの自分を受け入れるという感覚と同じです。
受容という言葉の反対は、拒否です。自己受容というのは、ポジティブなことであれ、ネガティブなことであえ、拒否したり、無視したりするのではなく、受け入れるということを指します。
そして、自己受容は、無条件であるという点において、自己信頼と極めて近い概念だと私は思っています。違いがあるとすれば、その時間軸であり、自己受容の方が時間軸が短めであり、自己信頼の方が時間軸が長い印象を持っています。
これまでの記事でご紹介してきた自己一致(=メタ意識から、直感、思考、身体意識をありのままに捉えること)も、自己受容や自己信頼と近い概念であり、自己一致はその中でも、最も「いまここ」の一瞬一瞬の感覚に近いという印象を持っています。
ここまでご紹介してきた、自己XX感という自己信頼に似た概念を整理したものが上図となります。自己効力感、自己肯定感、自己有用感は、それぞれの判断基準がコト起点か、ジブン起点か、ヒト起点かという違いはあるものの、全て条件付きで自分を信じるということは共通しており、その意味において自己信用にあたるものと私は捉えています。
また、先ほど述べたように、自己一致、自己受容、自己信頼は、無条件でありのままの自分を捉えるということが共通しており、その違いは時間軸の長さにあると私は捉えています。
ここで1点補足しておくと、自己信用は、何らかの基準に沿って判断するという意味において、思考意識中心に自己を捉えています。一方で、自己信頼は、自己一致がそうであったようにメタ意識中心に自己を捉えています。
今回の記事では、いろいろな概念を新しく提示しながら、自己信頼との違いをお話ししてきました。情報量が多く、難解な部分もあったかもしれませんが、自己信頼という概念をかなり立体的に、的確に捉えることができるようになったのではないでしょうか。
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