COLUMN コラム

リーダーは、自分の何を磨くべきか?

落合文四郎
Alue co.jp CEO
2021.04.19

以前の記事で、リーダーの立場に近づくほど、成長のカギは技術課題から適応課題になると述べました。技術課題はいわゆるスキルで解決する一方、適応課題はその人の価値観の変化が伴います。

人の価値観が変わるのはどんなときでしょうか。私は、人の精神(内面)が成熟することと、価値観の変化は同時に訪れると考えています。今回はこの「精神的成熟」について述べていきたいと思います。

精神的成熟とは、ジブンと周囲の矛盾の両立
最初の記事で「経営とは矛盾の両立」と述べました。矛盾はジブン・コト・ヒトの3つの領域で常に発生しています。

様々な矛盾の解決の起点は、ジブンに関することです。そして、ジブン領域の矛盾を両立していくこと(止揚・アウフヘーベンすること)が、精神的成熟であると言えます。

ジブン領域の矛盾とは、自分の内面と、自分の外面となる周囲の人々やビジネスの現実との間の矛盾です。自分がやりたいことと、周囲の人々がやりたいことのギャップや、本来のありたい自分と、本来の意図に反して振る舞ってしまう自分とのギャップなどが挙げられます。

私たちは、ジブン領域の矛盾を両立しながら大人になっていきます。例えば、プロ野球選手やプロサッカー選手になりたいという夢を持った小学生。このような夢を持つ子供たちは多いですが、実際に夢を叶えられる人はごく一部です。つまり、多くの人が、自分の夢と、実力・環境・運などに影響を受けた現実とのギャップに直面するのです。

このとき、夢に固執して現実を無視する、場合によっては逃避してしまうのは、精神的に成熟していない人の行動です。また、夢を捨てて、現実に沿った形でのみ生きるというのも、精神的に成熟していない人の行動になります。そのどちらでもなく、自分が固執していた夢を手放しながらも、新たな夢を見つけながら、自分の得意なことや、周囲から求められることと調和させていくのが、成熟に向けたステップです。

そして、このプロセスの中で、最初は自分だけの中に閉じた夢であったものを、周囲にもいい影響をあたえるような、より大きな夢に発展させていったり、周囲の人と夢やヴィジョンを共有したりすることが成熟につながります。自分のためだけの夢を「野心」とよび、自分だけではなく周囲の人のためにもなるようなものを「志」とよぶならば、最初は野心であったものが、志に変わっていくということも精神的な成熟の大切な要素になります。

野心:自分だけの中に閉じた夢であり、自分のためだけの夢

志:自分だけではなく周囲の人のためにもなる夢

成人発達理論における成熟の捉え方
精神的成熟をより俯瞰的に理解する上では、成人発達理論が役に立ちます。成人発達理論とは、人間の成人以降の成長・発達に焦点をあてた心理学の理論です。人の知性・意識は段階的に成長していくとする点に特徴があります。

次の図は、成人発達理論における意識の成長段階を説明したものです。ここでは、意識の成熟の4つの段階について、大枠を説明します。

①利己的段階
沸き上がる衝動や欲望が自分自身という世界観。欲望をストレートに表現することで周囲を動かそうとする。
例えば、お菓子がほしいときに泣くことでそれを叶えようとする。

②環境順応型知性
周囲との関係性や周囲への成果で自分を定義する世界観。周囲から期待されている自分と、自分自身(エゴ)の両立を図る。
例えば、親の期待に応えることによって(例:習い事をちゃんとやる)、お菓子をもらえるように振舞う。
①利己的段階では、自分の欲望をストレートにぶつけるだけではうまくいかない(お菓子を我慢しなさいと怒られる、友達とうまく関係を作れない、等)現実に直面することになる。そこで「周囲の期待を満たす」という方策により、現実との両立を図っている。

③自己主導型知性
自分自身を超えた「本当に大切なもの」に従って行動する世界観。自分の信じる理想に従って、現実を変えていくことで両立を図る。
例えば、誰かから具体的に期待されていないとしても、組織のビジョン実現に向けて、周囲の人を巻き込み行動していく。
②環境順応型知性では、周囲の人がまだ期待していない・気づいていないものは実現できなくなる。例えば、本当はやるべきことを、周囲の人が目先の仕事に捉われて手伝ってくれない場合に、行動できなくなってしまう。そこで、あるべき理想を拠り所とし、たとえ周囲が反対したとしても、理想を発信し、周囲の期待を変えていくことで、両立を図っている。

④自己変容型知性
自分の掲げる理想すら一定のものではなく、変化する器が自分自身という世界観。世界と自分の境界が薄くなる、自分は「無」である、とも言い換えられる。これから起ころうとする未来を感じ取り、現実との両立を図る。
③自己主導型知性では、あるべき理想を拠り所とするが、それ自体はその人の内面から出てくるものであるため、周囲を動かす際に孤立する場面も出てくる。そこで、自分の掲げる理想すら可変のものと捉え、世界との共存を図る。

以上が成人発達理論で考える4つの意識段階です。先ほど、精神的成熟とはジブン領域の矛盾の両立と述べましたが、より正確に定義するならば、精神的成熟とは、本来の自己と周囲・社会との調和という矛盾の両立に向けた段階的な変容と言えるでしょう。

成熟が進むと「器が広がる」
意識の段階一つひとつも大変奥深いのですが、今回は各段階の深掘りはあえてせずに、成熟という現象自体の重要な点をお伝えすることに絞りたいと思います。それは、その意識段階では両立できないものを両立しようとするときに、意識が次の発展段階に移行する(=精神的成熟が一段階進む)ことです。

このとき、結果として起こる最も根本的な変化とは、ジブンと捉える範囲が広がるという現象です。自分は文字通りの自分でしかないと閉じていたのが、周囲も含めて自分と捉えられるようになるのです。

成熟している人は、「外部との調和が自分の喜び」と認識しています。そして成熟が進むほど、この「外部」の範囲が、身近な周囲の人(家族や親友など)⇒自分が所属する身近なコミュニティ(近隣の地域など)⇒より大きなコミュニティ(会社や学校など) ⇒ 地球システム全体、と広がっていきます。

別な見方をすれば、成熟するほどエゴが弱まり器が広がる、と表現することもできるでしょう。リーダーは様々な人たちとかかわっていきます。かかわる範囲が増えたとき、リーダー自身のエゴが強ければ、共鳴する人は限られてしまいます。リーダーは多くの人を巻き込む立場であるからこそ、精神的な成熟が必要になります。

成人発達理論は “どうすれば成熟できるか” の詳細までは教えてくれない
さて、成熟に向けて意識を段階的に発展させることの意義をお伝えできたかと思いますが、これはあくまで意識の発展段階の結果を類型化したものであって、プロセスには言及されていません。

意識段階の移行は、知識や技術で解決できないのはもちろん、「XX段階的に振舞おう」といった態度で解決するものでもありません。意識の段階は、その人のモノの見方/生きる上での「世界観」のようなものです。実際には、後になって「XX段階にいたのかな」と気づく形で、いつの間にか移行していることが多いのです。

しかも、実は意識の段階を移行するには、少なくても数年、場合によっては10年単位の時間がかかることも珍しくありません。

意識の発展段階の類型を理解したところで、実際にどうすれば移行できるのか、直接的な答えを教えてくれるわけではありません。だからといって無意味というわけではなく、自分の意識構造の現在地を知るという点において、意味があると個人的には思います。

では、成熟していくにはどうすればよいのか。この具体的なプロセスについては次回以降でお伝えしていきたいと思います。

落合文四郎blog
2021.04.19

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