COLUMN コラム

なぜ、組織は変われないのか?②

落合文四郎
Alue co.jp CEO
2021.04.08

前回の記事においては、「なぜ、組織は変われないのか?」というテーマで、2種類の慣性「目に見えやすい組織の慣性=組織の技術課題」と「目に見えにくい組織の慣性=組織の適応課題」についてお話ししました。(前回の記事をまだ読まれていない方は、こちらもぜひご一読ください)

その中で、組織の適応課題というのは、組織全体として価値観レベルの変容が求められるものであるため、組織が変わることができない真の原因になることが多いということをお伝えしました。

また、当社の管理職育成マーケットへのチャレンジにおいては、次のような適応課題があったことをご紹介しました。

以前の当社の考え方:お客様の課題を引き出した上で、その課題に対する質の高いソリューションを提供するソリューション提供者(ベンダー)

現在の当社の考え方:「お客様以上にお客様のことを考え、お客様と一緒に課題とそのソリューションを共に悩み、共に考え、共に試行錯誤していくパートナー」

このような価値観の変化は、このような形でまとめると一見簡単なようにみえますが、実はとても難しいことなのです。

価値観レベルの変化には、心理的な葛藤や不安や恐れが伴う
適応課題への対応が簡単にいかない理由は、価値観レベルの変化には心理的な葛藤や不安や恐れが伴うからです。

当社の管理職育成の例でいえば、「(既にある)ソリューションを提供する」という考え方をもっていたときに、「ひょっとしたら、ソリューションが提供できない可能性もある」というのは、不安や恐れを伴います。

「お客様には明確な課題がある」という考え方をもっていたときに、「課題さえも明確ではない。話の流れによっては、自分が知らない領域の話に及ぶかもしれない」というのも、不安や恐れを伴います。

「課題を一緒に考える」ということができたとしても、「課題を一緒に考えているだけで、自分の存在価値はあるのだろうか」という葛藤に悩みます。

このような不安や恐れや葛藤は、なぜ起こるかと言えば、自分を守るためです。自分を守ると書くと、防御的なよくないことのような感じがするかもしれませんが、そうではありません。人間にとって、自分を守ることはとても自然な行為であると言えます。

価値観は、それまでの人生経験をもとに、自分と周囲が調和するために作り上げられてきたという側面を持ちます。今もっている自分の価値観は、これまでの人生のパラダイムにおいては、自分と周囲を調和させるために必要なものだったのです。

価値観の脱構築と再構築というのは、「これまで自分を守っていたものを手放す」ということなので、不安や恐れや葛藤がでてくるのです。

このように、組織の適応課題に対処するためには、不安や恐れや葛藤を克服していくことが必要であり、これは一朝一夕にはいかないことです。個人の適応課題の克服と同様、組織の適応課題の克服には、時間がかかります。それは、価値観レベルの変化が必要であり、心理的な不安や恐れや葛藤の克服という過程を経るからです。

適応課題と技術課題の混同
実は、ここでもう一つ、組織が変わりにくい要因があります。それは、組織の適応課題を、組織の技術課題と混同してしまうことです。

当社の管理職育成についても、「自分たちはどのような存在か」ということについての適応課題を、商品やマーケティングや営業の仕方などの技術課題と混同してしまい、後者をいくらやっても結果がでなかったというのはこれまでご説明した通りです。

適応課題を技術課題として取り扱ってしまい、どれだけ技術課題に対処しても変化がおきにくいというのは、「なぜ、リーダーは変われないのか」という話と酷似します。

適応課題を技術課題と捉えてしまうと、技術課題については、いろいろやることが明確ですし、たくさんありますし、やればできるという面もありますから、そこに意識や時間や労力を集中してしまいがちです。

ただ先ほど述べたように、適応課題を技術課題と捉えてしまうと、いくらやっても、見た目の取り組みが変わっても本質的なところは変わらないということになり、「組織は変われない」という結末になってしまいます。

適応課題があるときに、どれだけ技術課題に対処しても、結果はでません。内面の変化が、外面の変化を創り出すからです。内面の変化が必要なときに、内面の変化なく外面を変化させても、外面の変化は表面的なものに過ぎなくなります。

まずは、組織の適応課題に気づくことから
組織の慣性について、まず一番大事なのは、技術課題と適応課題を切り分けて認識して、適応課題がある場合に、「これは組織としての適応課題である」ということを、組織全体として認識するということです。

当社としても、「自分たちをどのような存在として捉えるか」という組織としてのアイデンティティに関わる適応課題であることを、組織全体で共有したときから、変化が始まりました。

適応課題であることを組織全体で共有できれば、ひとり一人の価値観の脱構築と再構築のプロセスを、お互いの経験の共有、感じたことの対話、不安や葛藤への支援を通じながら、じっくりと組織としての変容を進めていくことができます。

不安や葛藤や恐れへの対処というと、何か暗く、辛いものだけをイメージするかもしれませんが、組織全体で前向きに取り組んでいくことも可能です。1人では、向き合うのが大変な変化であっても、チームとして支え合いながらやっていくことで前向きに取り組んでいくことができます。

この変化のプロセスにおいては、やはりリーダー的な立場の人にとっての、個人としての価値観の脱構築、再構築というプロセス、すなわち、リーダー個人としての適応課題への対応は極めて重要であると思います。

組織全体の適応課題ですから、リーダー的立場の人以外の人を含めて、全員にとっての適応課題といえるものの、やはりその中でもリーダー的立場の方の適応課題に対する向き合い方が、組織全体に対して大きな影響力をもつということは、皆さんにも実感があるところではないでしょうか。

組織全体として適応課題に気付いたとしても、リーダーの方自身が自分自身の適応課題でもあるということを自覚して、その課題にアプローチすることなしに、組織全体が適応課題に向き合うことはできないと思っておいたほうがよいだろうと思います。

これは必ずしも、リーダーの方の適応課題への対応が、組織全体の適応課題を牽引することを意味するものではありません。リーダー的立場ではない人が、率先して適応課題に向き合い、組織全体に対していい影響を及ぼして、組織の適応課題の克服に貢献するという事例も多くあります。

ただ、このプロセスにおいて、リーダーの方が個人の適応課題に向き合わないと、そのいい流れを止めてしまったり、潰してしまったりするリスクがあるくらいの影響力をもっていることを自覚しておいた方が良いということになります。

落合文四郎blog
2021.04.08