COLUMN コラム

なぜ、組織は変われないのか?①

落合文四郎
Alue co.jp CEO
2021.04.08

前回の記事は「なぜ、リーダーは変われないのか?」というお話をしましたが、今回の記事では、「なぜ、組織は変われないのか?」ということについてお話しします。

▼上層部の考え方が変わらず、新しい取り組みをすることができない
▼何をするにも部署間調整が必要で、身動きが取れない
▼昔ながらの仕組みや制度が形骸化しているものの、なかなか変えられない
▼今やっていることが手一杯で、新しい取り組みをやりたくてもできない
▼DX(デジタルトランスフォーメーション)化など、やらなければいけないことはわかっていても、組織としては動き出せない

このような思いや意見が、あなたの会社や組織にも少なからずあるのではないでしょうか。私自身、このようなことを感じないときはないと言っても過言ではないくらい、日々向き合っています。

組織には2種類の慣性がある
「組織には慣性がある」と言われます。組織は簡単には変われないという文脈で、よく出てくる言葉です。慣性というのは、もともとは物理学の用語です。静止している物体に力が働かなければ、物体は静止し続ける。運動している物体に力が働かなければ等速直線運動を続ける。これが物理学における慣性の法則です。

この考え方を組織について当てはめた時に、これまでと同じ仕組み、制度、慣習などを続けようとする性質を組織全体として持つということを、「組織には慣性がある」と表現しているのだと思います。

私も、「組織は、なぜ変われないのか」といったときに、「組織には慣性があるから、変わりにくい」という答えはその通りと思います。ただし、実はここに2種類の慣性があるということはあまり語られていないのではないかと思っています。

2種類の慣性というのはどういうことかというと、一つは「目に見えやすい慣性」であって、例えば、仕組み、制度、行動の習慣、組織ルーチンなど。もう少し具体的な例でいくと、人事制度、組織設計、役割分担、会議の仕方、営業の仕方、コミュニケーションの仕方などが、「目に見えやすい慣性」にあたります。

「目に見えやすい慣性」についても、確かに変わりにくい側面を持ちます。例えば、人事制度を一つ挙げても、人事制度を明日から変えましょうと言うと、多くの企業ではいきなり変わってしまうことに対する混乱が起こると思います。

人事制度の考え方や内容を前提にして社員が働いてるときに、それをいきなり変えるとなると、自分は何をすれば評価されるのか、自分の給与はどうなるのか、自分は昇進できるのか、福利厚生はどうなるのか、など、自分が働くことの前提の変化に、すぐには追いつけない人も多く、混乱してしまうことでしょう。

ただ、「目に見えやすい慣性」に関する変化は、このように急激な変化に対して混乱しやすい、うまくいきにくいという面がある一方で、時間をしっかりとかけたり、方法をしっかり詰めてやれば、変化させることができるという面もあります。

先ほどの、人事制度の例でいえば、経営課題や組織課題から変更の必要性がでてきたならば、新しい制度のコンセプト検討、制度の詳細設計をしっかりと行い、それを説明して共有化していくプロセスを丁寧にとることによって、人事制度変更を実現することは不可能なことではありません。

実は、もう1つの「目に見えない慣性」が、「組織がなぜ変われないのか」というところの本質的な要因ではないかと思っています。「目に見えない慣性」というのは、組織文化や組織内で共有された価値観のような、目に見えない価値観や文化のことを指します。

前の記事を読んでいただいている方は、ここでピンとくるものがあるのではないかと思います。「なぜ、リーダーは変われないのか?」という記事において、技術課題と適応課題という2種類の課題についてお話ししましたが、実はこの内容と密接に関係しています。

まずは、技術課題と適応課題について、おさらいをしましょう。前の記事では、このように定義をしました。

技術課題:現在保有する技術や知識では解決ができないが、解決に必要な技術や知識が存在しており、それを用いることで解決できる課題

適応課題:既存の思考様式では解決することが難しく、従来の価値観や信念の一部を変更、もしくは手放すことが求められる課題

組織としての「目に見えない慣性」というのは、まさに組織としての適応課題のことを指します。そして、これは価値観や信念の一部を変更もしくは手放すことが求められる課題であるが故に、非常に変えにくい、変わりにくい性質を持っているのではないかと思っています。

組織としての適応課題
一つの具体例として、当社(アルー株式会社)が最近直面した組織としての適応課題についてのお話しをしたいと思います。

当社はもともと大企業向けの新人教育に強みを持っていました。当社のカスタマイズ能力と、質を維持した大規模オペレーション(1日数十クラス同時開催など)の両立が、当社が選ばれている理由と考えています。

2015年あたりから、管理職育成マーケットにチャレンジしていこうというヴィジョンを打ち出しました。新人育成の文脈において、新人や若手が育つ組織を創るためには管理職の方が非常に重要な存在ですから、当社として管理職育成に目が向くことは自然な流れでした。

それから、管理職トレーニングの商品開発、マーケティング、営業などを開始しました。すぐには結果はでないということはわかっていたものの、想定以上に苦戦をします。新人や若手研修を導入いただいている既存のお客様がいますから、管理職研修についても当社の考えを聞いて頂くことはできますし、提案機会も頂けます。

しかし、受注ができないのです。当初は、商品がニーズにあってないのかもしれないと考え、商品内容を見直したり、管理職研修にはアセスメントが必須と考えてアセスメントを開発したりしました。営業やマーケティングについても、社内の営業トレーニングをやったり、マーケティングの打ち出しを強化したり、いろいろ試行錯誤しました。それでも、突破口はみつかりませんでした。

最近では、管理職育成においても、新人育成と同様に、大企業のお客様から受注することができるようになっているのですが、その転換点は何かと言えば、当社にとって管理職マーケットにチャレンジするということは、組織としての適応課題に向き合うことだということに気づいたことでした。

当社にとっては、何が組織としての適応課題だったのでしょうか?

当社が、新人研修とか中堅社員研修を提供する場合、「お客様に明確な課題があって、我々はその課題に対するソリューションを提供する存在」という考え方が前提にあります。

例えば、最近、若手の離職が多い、あるいは若手のモチベーションが上がっていないという課題に対して、若手側には、仕事の中で自分から機会を見つけていくという姿勢やスキルを伝えると共に、OJTトレーナーや管理職の人たちには、若手の働きぶりを観察したり、コミュニケーションしたりすることによって、若手の意思・思いと仕事を結び付けていく姿勢やスキルを伝えましょうという提案をしたりします。

このようなアプローチは、新人・若手研修においては有効であり、お客様からもご支持いただいているところになりますが、この大前提にある価値観や考え方が、管理職育成においてはそのまま通用しなかったのです。

それまでの当社において、当たり前になっていた価値観・考え方というのは、「お客様には、明確な課題がある。その課題を引き出した上で、その課題に対する質の高いソリューションを提供することが当社の提供価値である」というものでした。自分たちを「ソリューション提供者(ベンダー)」と捉えていたのです。

適応課題には、価値観レベルの変容が含まれる
テーマにも依りますが、管理職育成においてはこの前提が通用しません。管理職育成は、組織課題に直結しますし、組織課題は経営課題に直結します。例えば、経営として新しい中期経営計画を立てて、グローバル領域で売上XX%、デジタル領域などの新領域にも進出していく、という方針を打ち出したとすれば、当然ながらどのような組織をつくり、どのような人材を育成するのかという、組織課題・人材育成課題に展開されます。

組織課題・人材育成課題の対象は、全社員になりますが、管理職の方々には、その中でも中核的な役割を期待されます。すなわち、管理職育成というのは、経営課題・組織課題の体現なのです。

一番最初の記事にてお話しをしたとおり、経営は矛盾の統合ですから、経営課題・組織課題に明確な答えはでてきません。従って、管理職育成も明確な答えがあるわけではないのです。答えがないだけではなく、課題や問いが明確になっていないことも多いのです。

何が問いなのか、何が課題なのかさえもわからない中で、お客様と一緒に問いを考えていくことが必要です。一方で、ずっと悩み続けているわけにもいかないので、その時なりにベストな仮説をたてて、管理職育成として実行していくことも必要です。課題設定もソリューション実行も暗中模索、試行錯誤の連続なのです。

そのような状況において、もつべき価値観・考え方は「お客様以上にお客様のことを考え、お客様と一緒に課題とそのソリューションを共に悩み、共に考え、共に試行錯誤していくパートナー」というものです。

以前の当社の考え方:お客様の課題を引き出した上で、その課題に対する質の高いソリューションを提供するソリューション提供者(ベンダー)

現在の当社の考え方:「お客様以上にお客様のことを考え、お客様と一緒に課題とそのソリューションを共に悩み、共に考え、共に試行錯誤していくパートナー」

このような形でまとめると、一見単純なような、簡単なことのように思われるかもしれませんが、実はこのような価値観レベルの違いというのは、当事者の感覚としては天と地ほどの違いに思えます。

これがどのくらい大きなギャップなのか、そのギャップを乗り越えるためにはどうすればよいのかについて、次の記事でお話ししたいと思います。

落合文四郎blog
2021.04.08

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