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なぜ、組織は変われないのか?①

前回の記事は「なぜ、リーダーは変われないのか?」というお話をしましたが、今回の記事では、「なぜ、組織は変われないのか?」ということについてお話しします。

▼上層部の考え方が変わらず、新しい取り組みをすることができない
▼何をするにも部署間調整が必要で、身動きが取れない
▼昔ながらの仕組みや制度が形骸化しているものの、なかなか変えられない
▼今やっていることが手一杯で、新しい取り組みをやりたくてもできない
▼DX(デジタルトランスフォーメーション)化など、やらなければいけないことはわかっていても、組織としては動き出せない

このような思いや意見が、あなたの会社や組織にも少なからずあるのではないでしょうか。私自身、このようなことを感じないときはないと言っても過言ではないくらい、日々向き合っています。

組織には2種類の慣性がある

「組織には慣性がある」と言われます。組織は簡単には変われないという文脈で、よく出てくる言葉です。慣性というのは、もともとは物理学の用語です。静止している物体に力が働かなければ、物体は静止し続ける。運動している物体に力が働かなければ等速直線運動を続ける。これが物理学における慣性の法則です。

この考え方を組織について当てはめた時に、これまでと同じ仕組み、制度、慣習などを続けようとする性質を組織全体として持つということを、「組織には慣性がある」と表現しているのだと思います。

私も、「組織は、なぜ変われないのか」といったときに、「組織には慣性があるから、変わりにくい」という答えはその通りと思います。ただし、実はここに2種類の慣性があるということはあまり語られていないのではないかと思っています。

2種類の慣性というのはどういうことかというと、一つは「目に見えやすい慣性」であって、例えば、仕組み、制度、行動の習慣、組織ルーチンなど。もう少し具体的な例でいくと、人事制度、組織設計、役割分担、会議の仕方、営業の仕方、コミュニケーションの仕方などが、「目に見えやすい慣性」にあたります。

「目に見えやすい慣性」についても、確かに変わりにくい側面を持ちます。例えば、人事制度を一つ挙げても、人事制度を明日から変えましょうと言うと、多くの企業ではいきなり変わってしまうことに対する混乱が起こると思います。

人事制度の考え方や内容を前提にして社員が働いてるときに、それをいきなり変えるとなると、自分は何をすれば評価されるのか、自分の給与はどうなるのか、自分は昇進できるのか、福利厚生はどうなるのか、など、自分が働くことの前提の変化に、すぐには追いつけない人も多く、混乱してしまうことでしょう。

ただ、「目に見えやすい慣性」に関する変化は、このように急激な変化に対して混乱しやすい、うまくいきにくいという面がある一方で、時間をしっかりとかけたり、方法をしっかり詰めてやれば、変化させることができるという面もあります。

先ほどの、人事制度の例でいえば、経営課題や組織課題から変更の必要性がでてきたならば、新しい制度のコンセプト検討、制度の詳細設計をしっかりと行い、それを説明して共有化していくプロセスを丁寧にとることによって、人事制度変更を実現することは不可能なことではありません。

実は、もう1つの「目に見えない慣性」が、「組織がなぜ変われないのか」というところの本質的な要因ではないかと思っています。「目に見えない慣性」というのは、組織文化や組織内で共有された価値観のような、目に見えない価値観や文化のことを指します。

前の記事を読んでいただいている方は、ここでピンとくるものがあるのではないかと思います。「なぜ、リーダーは変われないのか?」という記事において、技術課題と適応課題という2種類の課題についてお話ししましたが、実はこの内容と密接に関係しています。

まずは、技術課題と適応課題について、おさらいをしましょう。前の記事では、このように定義をしました。

技術課題:現在保有する技術や知識では解決ができないが、解決に必要な技術や知識が存在しており、それを用いることで解決できる課題

適応課題:既存の思考様式では解決することが難しく、従来の価値観や信念の一部を変更、もしくは手放すことが求められる課題

組織としての「目に見えない慣性」というのは、まさに組織としての適応課題のことを指します。そして、これは価値観や信念の一部を変更もしくは手放すことが求められる課題であるが故に、非常に変えにくい、変わりにくい性質を持っているのではないかと思っています。

組織としての適応課題

一つの具体例として、当社(アルー株式会社)が最近直面した組織としての適応課題についてのお話しをしたいと思います。

当社はもともと大企業向けの新人教育に強みを持っていました。当社のカスタマイズ能力と、質を維持した大規模オペレーション(1日数十クラス同時開催など)の両立が、当社が選ばれている理由と考えています。

2015年あたりから、管理職育成マーケットにチャレンジしていこうというヴィジョンを打ち出しました。新人育成の文脈において、新人や若手が育つ組織を創るためには管理職の方が非常に重要な存在ですから、当社として管理職育成に目が向くことは自然な流れでした。

それから、管理職トレーニングの商品開発、マーケティング、営業などを開始しました。すぐには結果はでないということはわかっていたものの、想定以上に苦戦をします。新人や若手研修を導入いただいている既存のお客様がいますから、管理職研修についても当社の考えを聞いて頂くことはできますし、提案機会も頂けます。

しかし、受注ができないのです。当初は、商品がニーズにあってないのかもしれないと考え、商品内容を見直したり、管理職研修にはアセスメントが必須と考えてアセスメントを開発したりしました。営業やマーケティングについても、社内の営業トレーニングをやったり、マーケティングの打ち出しを強化したり、いろいろ試行錯誤しました。それでも、突破口はみつかりませんでした。

最近では、管理職育成においても、新人育成と同様に、大企業のお客様から受注することができるようになっているのですが、その転換点は何かと言えば、当社にとって管理職マーケットにチャレンジするということは、組織としての適応課題に向き合うことだということに気づいたことでした。

当社にとっては、何が組織としての適応課題だったのでしょうか?

当社が、新人研修とか中堅社員研修を提供する場合、「お客様に明確な課題があって、我々はその課題に対するソリューションを提供する存在」という考え方が前提にあります。

例えば、最近、若手の離職が多い、あるいは若手のモチベーションが上がっていないという課題に対して、若手側には、仕事の中で自分から機会を見つけていくという姿勢やスキルを伝えると共に、OJTトレーナーや管理職の人たちには、若手の働きぶりを観察したり、コミュニケーションしたりすることによって、若手の意思・思いと仕事を結び付けていく姿勢やスキルを伝えましょうという提案をしたりします。

このようなアプローチは、新人・若手研修においては有効であり、お客様からもご支持いただいているところになりますが、この大前提にある価値観や考え方が、管理職育成においてはそのまま通用しなかったのです。

それまでの当社において、当たり前になっていた価値観・考え方というのは、「お客様には、明確な課題がある。その課題を引き出した上で、その課題に対する質の高いソリューションを提供することが当社の提供価値である」というものでした。自分たちを「ソリューション提供者(ベンダー)」と捉えていたのです。

適応課題には、価値観レベルの変容が含まれる

テーマにも依りますが、管理職育成においてはこの前提が通用しません。管理職育成は、組織課題に直結しますし、組織課題は経営課題に直結します。例えば、経営として新しい中期経営計画を立てて、グローバル領域で売上XX%、デジタル領域などの新領域にも進出していく、という方針を打ち出したとすれば、当然ながらどのような組織をつくり、どのような人材を育成するのかという、組織課題・人材育成課題に展開されます。

組織課題・人材育成課題の対象は、全社員になりますが、管理職の方々には、その中でも中核的な役割を期待されます。すなわち、管理職育成というのは、経営課題・組織課題の体現なのです。

一番最初の記事にてお話しをしたとおり、経営は矛盾の統合ですから、経営課題・組織課題に明確な答えはでてきません。従って、管理職育成も明確な答えがあるわけではないのです。答えがないだけではなく、課題や問いが明確になっていないことも多いのです。

何が問いなのか、何が課題なのかさえもわからない中で、お客様と一緒に問いを考えていくことが必要です。一方で、ずっと悩み続けているわけにもいかないので、その時なりにベストな仮説をたてて、管理職育成として実行していくことも必要です。課題設定もソリューション実行も暗中模索、試行錯誤の連続なのです。

そのような状況において、もつべき価値観・考え方は「お客様以上にお客様のことを考え、お客様と一緒に課題とそのソリューションを共に悩み、共に考え、共に試行錯誤していくパートナー」というものです。

以前の当社の考え方:お客様の課題を引き出した上で、その課題に対する質の高いソリューションを提供するソリューション提供者(ベンダー)

現在の当社の考え方:「お客様以上にお客様のことを考え、お客様と一緒に課題とそのソリューションを共に悩み、共に考え、共に試行錯誤していくパートナー」

このような形でまとめると、一見単純なような、簡単なことのように思われるかもしれませんが、実はこのような価値観レベルの違いというのは、当事者の感覚としては天と地ほどの違いに思えます。

これがどのくらい大きなギャップなのか、そのギャップを乗り越えるためにはどうすればよいのかについて、次の記事でお話ししたいと思います。

本日の問いとなります。(よろしければ、コメントにご意見ください)

・あなたが所属している会社や組織や学校において、組織としての適応課題に直面したことがあるとすれば、それはどのような適応課題でしたか?

・上記の適応課題において、どのような組織としての価値観レベルの変化が求められましたか?

Why Can't Organizations Change? vol.1

My last post was "Why Can't Leaders Change?" In this post, we'll discuss "Why Can't Organizations Change?"

▼ "The mindset of upper management has not changed and we are unable to take new initiatives."
▼"Interdepartmental coordination is required to do anything, and I'm stuck"
▼"Old-fashioned structures and systems are becoming a shambles, but they are difficult to change."
▼"I have my hands full with what I'm doing now, and I can't take on new initiatives even if I wanted to."
▼"We know we have to do things like digital transformation (DX), but we can't move forward as an organization."

I'm sure there are more than a few of these thoughts and opinions in your company or organization. I am not exaggerating when I say that there is not a time when I don't feel these things myself, and I face them every day.

Two kinds of inertia in an organization

It's been said that "organizations have inertia." It's a term that often comes up in the context of the fact that organizations don't change easily. Inertia is a term originally from physics. If there is no force acting on a stationary object, the object will remain at rest. If there is no force acting on an object in motion, it will continue in constant velocity linear motion. This is the law of inertia in physics.

When this concept is applied to organizations, I think it is expressed as "an organization has inertia" when the organization as a whole tries to maintain the same mechanisms, systems, and practices as before.

When people ask why organizations can't change, the answer is "organizations have inertia, so they are difficult to change," which I think is true. However, I don't think it's often mentioned that there are two kinds of inertia here.

What do I mean by the two types of inertia? 

One is "visible inertia," such as structures, systems, behavioral habits, and organizational routines. To take a more concrete example, the human resource system, organizational design, role allocation, how to conduct meetings, how to conduct sales, and how to communicate are all examples of "visible inertia".

There are certainly aspects of "visible inertia" that are difficult to change. To take the example of the HR system, if a manager says let's change the HR system tomorrow, there will be confusion about the sudden change in most cases.

Let's say that when employees are working under the current HR system, and that system suddenly changes. Many people won't be able to keep up with the changes in the assumptions under which they work and will be confused as to what they will be valued for, what their salary will be, whether they will be able to be promoted, what their benefits will be, etc.

However, while changes related to "visible inertia" can be easy to confuse and difficult to work with for such a rapid change, there is also the aspect that it can be changed if you take the time to carefully consider how to make the change.

To use the example of the HR system mentioned above, if the need for change arises from management or organizational issues, it is possible to implement a change in the HR system by carefully examining the concept of the new system, designing the details of the system, explaining the concept, and taking the process of implementing the system carefully. 

In fact, I believe that the other inertia, "invisible inertia," is the essential factor in why organizations cannot change. By "invisible inertia," I mean invisible values and culture, like organizational culture or shared values within an organization.

If you've read the previous article whose theme is "Why Can't Leaders Change?" , I'm sure you'll find something that rings a bell. In that article, I talked about two types of challenges, technical challenges and adaptive challenges, which are actually closely related to this content. 

First, let's review the technical and adaptive challenges. In the previous article, we defined them this way.

Technical challenges: challenges that cannot be solved with the technology and knowledge currently possessed, but the technology and knowledge needed to solve them exists and can be solved by using them.

Adaptive challenges: challenges that are difficult to solve with existing models of thinking and require changing or letting go of some of the traditional values and beliefs.


The "invisible inertia" of an organization is exactly what I mean by organizational adaptive challenges. And because it is a challenge that requires changing or letting go of some of our values and beliefs, I think it is very difficult to change or alter.

Adaptive challenges as an organization

As one specific example, I'd like to talk about an adaptive challenge our company (Alue Corporation) recently faced as an organization.

Our company has had a strong background in training new employees for large corporations. We believe that our ability to customize and combine our customization capabilities with large scale operations that maintain quality (e.g., dozens of simultaneous classes per day) is why we are the company of choice.

Around 2015, we launched a vision to challenge the management development market. In the context of new employee training, managers are extremely important in creating an organization that nurtures newcomers and young people, so it was natural for us to turn our attention to the development of management positions.

We then began product development, marketing and sales for management training. We knew we wouldn't see immediate results, but we were struggling more than we expected. We have existing customers who have introduced training for new employees and young people, so they can listen to our ideas about management training, and we have opportunities to make suggestions and proposals.

But we can't take orders. Initially, we thought the product might not meet their needs, so we reviewed the product content and developed assessments because we thought assessments were essential for management training. In sales and marketing, we conducted internal sales training, strengthened our marketing efforts, and went through a variety of other trials and errors. Even so, we were unable to find a breakthrough.

Recently, we have been able to take on large corporate clients in managerial development as well as in newcomer development, but the tipping point was the realization that for us, taking on the managerial market meant facing the adaptive challenges as an organization.

What were the adaptation challenges for our company as an organization?

When we provide training for new employees or mid-career employees, our premise is that the customer has clear issues and we are there to provide solutions to those issues.

For example, in response to the issue that there has been a lot of turnover of young people recently, or that young people's motivation has not been increased, we suggest that young people learn the attitude and skills to find opportunities in their work, and at the same time, we suggest that managers and OJT trainers learn the attitude and skills to connect the intentions and thoughts of young people with their work by observing how young people work and communicating with them openly.

This approach is effective in training new and younger employees, and is supported by our clients. However, the values and beliefs behind this basic premise did not work as it was in the training of managers.

Until then, the values and beliefs that had been the norm at our company were based on the principle of "Our customers have clear issues, and we need to identify them. The value of our company was to identify the issues and provide high quality solutions to those issues. We saw ourselves as a "solution provider (vendor)".

Adaptive challenges include the transformation of the values and beliefs level

Depending on the topic, this assumption does not hold true in management development. Managerial development is directly related to organizational issues, and organizational issues are directly related to management issues. For example, if a new mid-term management plan is formulated and a policy is set to increase sales by XX% in the global domain and to enter new domains such as digital domain, then naturally, it will be developed into organizational and human resource development issues such as what kind of organization to build and what kind of human resources to develop.

The target of organizational and human resource development issues is all employees, but managers are expected to play a core role in these issues. In other words, management development is the embodiment of management and organizational issues.

As I said in my first article, management is the integration of contradictions, so there is no clear answer to management and organizational issues. Therefore, there are no clear answers to management development either. Not only there are no answers, but the issues are often not clear.

While we don't even know what the issues are or what the challenges are, we need to think about the issues together with our customers. On the other hand, we can't keep worrying about it without taking action, so we need to come up with the best hypothesis at the time and implement it as management training. Issue setting and solution implementation are a continuous process of groping in the dark, trial and error.

In such a situation, the values and beliefs should be "a partner who thinks about the customer more than the customer, who shares their concerns, who considers the challenges and their solutions with the customer, and who works through trial and error with the customer".

Our previous values and beliefs: A solution provider (vendor) who finds out the customer's issues and provides high quality solutions to those issues.

Our current value and beliefs: A partner who thinks about the customer more than the customer, who shares their concerns, who considers the challenges and their solutions with the customer, and who works through trial and error with the customer.

Summed up in this way, it may seem simple or straightforward, but in fact, such a difference in value levels seems to be the difference between heaven and earth in the sense of the people involved.

I' d like to talk about how big of a gap this is and how to overcome this gap in the next article.

Here are the quests of the day. (If you'd like, please share your thoughts in the comments.)

・What organizational adaptive challenges, if any, have you faced in your company, organization or school?

・What organizational value and belief level changes were required in the above adaptive challenges?

Bunshiro Ochiai


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