COLUMN コラム

なぜ、リーダーは変われないのか?

落合文四郎
Alue co.jp CEO
2021.04.01

前回の記事では、これから連載していく第二章の全体像として「自身と組織の器が広がる、リーダーの意識変容メカニズムとは?」というテーマでお話をしました。ここからは、第二章の詳細として、リーダーと組織の変容をテーマとしてお話しします。前回の記事を読んでいない方は、そちらを先に読んでいただくと、全体像が掴みやすいと思います。

アルーでは新人から管理職まで、会社の様々な階層の人に対して研修を行っていますが、組織の上の立場になるほど、研修や育成の難易度は高まります。

▼プレイヤーとして大活躍していた人が、マネジャーになるとうまくいかなくなる
▼創業時は順調だったのに、会社の人数が増えるにつれて社長のマネジメントがうまくいかなくなる
▼プレイヤーとしても管理職としても有能だった人が、ある時期から全く成長しなくなる

このような事象は、多くの企業でおこっています。一つひとつの事象は異なりますし、企業によって問題の構造や文脈は異なります。いろいろな会社の人材育成課題・組織開発課題に向き合ってくる中で、また、自社の組織課題に向き合ってくる中で、これらの問題に通底する根本的なものがあることに気づきました。

なぜ多くの人がこのような壁にぶつかってしまうのでしょうか。その根本的な理由について、書いていきたいと思います。

技術課題と適応課題

結論からいえば、組織の上の立場になるほど、成長に向けた課題の性質が変わっていくからです。これは、技術課題と適応課題というキーワードで整理できます。

技術課題:現在保有する技術や知識では解決ができないが、解決に必要な技術や知識が存在しており、それを用いることで解決できる課題

適応課題:既存の思考様式では解決することが難しく、従来の価値観や信念の一部を変更、もしくは手放すことが求められる課題

言い換えれば、技術課題は、技術や知識を獲得することで解決可能である一方、適応課題は、価値観・信念の脱構築・再構築というプロセスを踏む必要があります。

若手の頃は、スキルをつけて技術課題をクリアすることで成長できます。営業の仕事であれば、基本的なビジネスマナーから始まり、お客様のニーズを聞く力や、それに合わせて提案する力を磨くことで、一定の成果を上げることができるでしょう。また、資格やプログラミングや語学などの技能により、仕事の幅を増やすことも可能です。

それに対して、組織をマネジメントする立場に近づくほど、成長のための課題は適応課題に近づいていきます。

例えば、部下の育成がうまくいかないリーダーがいたとします。このとき、技術課題がハードルであれば、部下の話を傾聴するスキルなどを教えればうまくいきます。

しかしながら、適応課題がハードルであれば、部下とはどういう存在か、という捉え方(メンタルモデル)を変えない限り、どんなスキルをつけても、問題は解決しません。

「部下は自分の仕事のための『道具』である」というメンタルモデルだとしたら、どんな教え方をしても、部下は自律的に働けるようにはならないでしょう。それ以前に、素直に指導を受け入れる信頼関係すら構築できないかもしれません。

このような場合、「部下はひとりの人間として尊重すべき存在」と捉えなおす必要があります。捉えなおしさえできれば、問題は一気に解決していくことがあります。これが、適応課題の解決に求められる価値観・信念の脱構築・再構築です。

リーダーに近づくほどスキルで課題は解決できない
リーダーに近づくほど適応課題をクリアしなければならないところを、それまでの経験の延長で技術課題として捉えてしまうのが、よくあるパターンです。この課題の取り違えが、リーダーの成長を難しくしている一つ目の要因です。

先ほどの部下の育成の例で言えば、「部下は自分の仕事のための『道具』である」というメンタルモデルを変えない限り、どんな育成スキルを勉強したとしても無意味です。経営理論を勉強しても、いつも同じようなパターンの問題に遭遇して、事業がうまくいかないことに悩む経営者たちも、同じく適応課題でつまづいている可能性が高いです。

このように、適応課題を技術課題と取り違える、つまりスキルで解決できない課題をスキルで解決しようとしてうまくいかないパターンは、現実に多く存在します。実際に、技術課題・適応課題という言葉の出典となっている本にも、次のように書かれています。

「実は、リーダーシップが失敗する原因は一つであり、政治、地域社会、企業、非営利セクターのいずれにおいても共通している。それは、責任ある立場の人が、適応課題を技術的課題のように扱ってしまうことである」
出典:ロナルド・A・ハイフェッツら「最前線のリーダーシップ」(英治出版、第一版第一刷、2018年)

適応課題への対処には精神的成熟が伴う
リーダーの成長が難しいもう一つの要因は、適応課題を解決するには精神(内面)の成熟が必要だということです。

繰り返しますが、技術課題はスキルで解決できるのに対し、適応課題は自分の価値観そのものを変えなければ解決できません。価値観を変革するには、感情面における不安や葛藤を抱えながら、実験と検証、チャレンジと内省というプロセスを地道に繰り返していくしかありません。仮に、技術課題ではなく適応課題にぶつかっていると認識できたとしても、実際に解決できるかは全く別の話です。

この地道なプロセスによって、精神的な成熟が起こり、結果としてメンタルモデルの再構築・適応課題の解決がもたらされます。

今回は、このプロセスの難しさをお伝えするまでに留めて、精神的成熟に関する詳しい内容は今後の記事にてお伝えしたいと思います。

落合文四郎blog
2021.04.01