COLUMN コラム

コラム

先行オーガナイザー

堤宇一氏
2019.05.23

カリスマ教育ママが新学期が始まる前に必ずやっていたこと
休日にテレビを観ていた時、ワイドショー番組の中で出演者が視聴者からの質問に答えるというコーナーがあった。
そこでなされた回答が素晴らしく、大いに感心させられた。今回のコラムは、その秀逸な回答の紹介とそれを題材に検討していきたいと思う。

質問者は小学生低学年の子供を持つ母親で「新学期開始にあたり、親として、どう勉強の面倒をみてあげれば良いか」という問いであった。
それに対し、4人の子ども全員を東京大学理科Ⅲ類(理Ⅲ、医学部)合格へと導いた「佐藤ママ」こと佐藤亮子さんが回答されていた。彼女は子供たちが小学生の時、新学期が始まる前に必ずやっていたことを紹介しておられ、具体的には次の様に回答されていた。
「新しい教科書をもらってきたら新学期の始まる前に、子供たちと一緒に1週間かけてすべての教科書を読み込む」という回答である。この事前に教科書を読破し新学期の準備をする行為が、学期が始まってからの授業理解に大いに効果を発揮するのである。

記憶や思考、学習などを研究分野とする「認知心理学」では、分かるという状態を「新しい情報が入ってきたとき既知の認知構造(すでに知っていること)と統合し、学習者にとっての意味をつくりだすこと」と捉えている(オーズベル D. P. Ausubel)。言い換えれば、学習者の中に意味のある過程を経て、組み入れられることによって学習が成立するのである。ポイントは、既知の認知構造を持っているか否かで、既に持っていれば学習は比較的容易になるが、なければ難しいのである。

事前にこれから学ぶことに関する情報を入手し認知構造を作ること=先行オーガナイザー
佐藤亮子さんが、オーズベルの理論を知っていたかどうかは定かではないが、とても理にかなった方法を用いて子供たちの勉強の効果を高めていたのである。
事前にこれから学ぶことに関する情報を入手し認知構造を作ることを「先行オーガナイザー(advance organizer)」と呼ばれる。この先行オーガナイザーは、これから学ぶ内容についての抽象的・概念的な枠組みや知識をさす。
まさしく佐藤さんは、教科書を一緒に読むことで、子供たちの頭の中に認知構造を形成していたのである。だから他の子供たちが授業内容の理解に苦労する中、彼女の子供たちは理解に苦しむことなく、学習を進めることができたのであろう。ますます勉強好きになっていったに違ない。

先行オーガナイザーが与えられると、知識の総体としての認知構造が変化し、後からの学習で使えるものが、先行して認知構造につけ加えられれば、後からの学習は容易になり、学習効果と効率を高めるのである。

特定非営利活動法人 学習分析学会 副理事長 堤宇一

<参考書籍>
西林克彦(1994) 「間違いだらけの学習論 なぜ勉強が身につかないのか」新曜社
高野陽太郎(編)(1995) 「認知心理学2 記憶」東京大学出版会

セミナー情報:<各回2日間>インストラクショナル デザイン基礎コース

インストラクショナルデザイン(以下、ID)は、効果的かつ効率的な教育を設計・開発するための方法と理論です。本セミナーは研修企画者&発注者として、ID理論と事実を基に企画し、専門家からの提案や研修の問題点を合理性を持って判断し、改善アイデアなどを検討するための知識と技術を育成します。
セミナー初日は、講義と小演習、全体演習を通してID理論の基本原則を掴みます。
2日目は、2つの事例演習(研修開発の事例演習&研修改善の事例演習)を行い、研修企画や改善の実践ポイントを理解します。多様な演習を通じて、ID理論の本質的な考え方や鍵となるテクニックを掴み、それらを実践に適用するスキルを強化します。

セミナー開催
詳細はこちらから
プロフィール画像
堤宇一氏
所属:NPO法人学習分析学会 副理事長

熊本大学大学院社会文化科学研究科教授システム学専攻修了。
「教育効果測定」を2000年より専門テーマとして研究を開始。教育効果測定での米国の第一人者であるJack Phillips博士が主催するROI Network(後にASTDとの事業提携によりASTD ROI Networkに名称改名)にて、アドバイザリーコミッティボードを2期(2001~2004年)務める。(株)豊田自動織機で行なった「SQC問題解決コースの教育効果測定プロジェクト(2002)」は、アジア初の事例としてIn Action ,Implementing Training Scorecards (ASTD)に掲載される。 2005年にNPO法人人材育成マネジメント研究会を設立、2015年5月に学習分析学会へ改組し、現職。
現在、産業人教育の品質向上を目指し「教育効果測定」「インストラクショナルデザイン」「人材育成」に関するコンサルタントとしてコンサルテーション、講演、執筆等幅広く活動。

熊本大学大学院社会文化科学研究科教授システム学専攻修了。
「教育効果測定」を2000年より専門テーマとして研究を開始。教育効果測定での米国の第一人者であるJack Phillips博士が主催するROI Network(後にASTDとの事業提携によりASTD ROI Networkに名称改名)にて、アドバイザリーコミッティボードを2期(2001~2004年)務める。(株)豊田自動織機で行なった「SQC問題解決コースの教育効果測定プロジェクト(2002)」は、アジア初の事例としてIn Action ,Implementing Training Scorecards (ASTD)に掲載される。 2005年にNPO法人人材育成マネジメント研究会を設立、2015年5月に学習分析学会へ改組し、現職。
現在、産業人教育の品質向上を目指し「教育効果測定」「インストラクショナルデザイン」「人材育成」に関するコンサルタントとしてコンサルテーション、講演、執筆等幅広く活動。

アカデミック