Learning Analytics事始め

Learning Analytics(LA)への期待は大きい。E-learningや様々な学習・教育を支援するデバイスやツールが日常的に利用されるようになり、教育や学習に関する様々なデータが取得できるようになった。いわゆる教育ビッグデータである。このデータを分析してその結果を教育・学習に活用しよう、これがLAの基本である。この「宝の山」には何か素晴らしいものが隠れているのではないか、学習や教育に関わる者であれば誰しもそのような期待感に駆られるはずである。


さて、LAとは何か? LAの世界トップカンファレンスであるLAK(International Conference on Learning Analytics and Knowledge)ではLAを次のように定義している。“Learning analytics is the measurement, collection, analysis and reporting of data about learners and their contexts, for purposes of understanding and optimizing learning and the environments in which it occurs.” つまり、「学習に関する様々なデータを収集・分析して学習環境の改善に役立てる」がその本質にあるとしている。しかし、このことはいわゆる従来までの教育評価や学習評価のごく一般的な考え方と何も変わらない。


Learning Analytics(LA)


では、LAの何が新しいのか?それは「学習過程の記録が比較的容易に取得可能」であることに尽きる。例えば、LMS(Learning Management System)上に展開されるe-learningの各種履歴データ、各種ツールやデバイスの利用履歴、あるいは各種センサーによって取得される行動データなどである。学習過程の記録は伝統的には映像記録からの授業分析、授業者や観察者による記録、あるいは学習者のポートフォリオ等の利用が行われてきており、これらは今後もなくなることはない。これら伝統的な手法と比較すると、「学習過程の時間軸に対して細かな粒度でデジタル化されたデータとして記録されるため様々な分析が可能」な点が教育ビッグデータが「宝の山」のように感じる所以である。学習評価や教育評価においてはテストやアンケート、インタビューによる学習結果の評価も大切であるが、学習者は何をしていたのか?つまり学習過程に関する評価はさらに重要なのである。


それでは、この「宝の山」を利用しさせすれば今までには困難であったような学習評価や教育評価、つまり「学習者の学習過程に関する評価」が可能になるのか? これはNO!である。「宝の山」はデータに過ぎない。データは文脈に応じた意味や解釈を付与して「情報」に変換しなければならない。そして、その「情報」を活用して「知識」として獲得して、「知識」を利用して「価値」を高めなければならない。そして、データに意味や解釈を付与するのは誰が行うのか? それは人間である。この点に関しては情報技術、人工知能技術が今後いかに発展しても人間の役割として残り、輝くべき点なのである。逆に、データに意味や解釈が付与できない、あるいは付与する必要がなくなった時に、その仕事は人間が行う必要がなくなるのである。特に、学習や教育においては人間の役割が重要であって、技術が進歩する以上に人間の成長が求められる分野でもある。


さて、学習や教育に関わるデータには以下のような特徴がある。

  • 個別性が高い
  • 形式(学習履歴データ等)と意味(学習・教育上の解釈)との乖離が大きい
  • 便益遅延性(その効果がいつ現れるか)が大きい
  • 効果の多様性(その効果がどのように現れるか)が大きい


つまり、他の分野と比較しても学習や教育に関わるデータは扱いが厄介なのである。したがって、ここには人間の役割が強く求められるのである。

教育ビッグデータを人間だけで分析することはほぼ不可能である。教育ビッグデータの分析技術、可視化技術は様々なものが開発されており、それらを利用するツールも多種多様に提供されている。人間はこれらのツールを適材適所に利活用してデータを情報、知識、価値へと高めていく必要がある。

LAは学習評価や教育評価、学習環境の構築(学習内容や学習環境の個別適応化など)の基盤となる。ここでは「人間本来の役割」が特に重要なのである。まさに、「人間と技術の共生」が必要となる。

松居 辰則氏
松居 辰則氏
学習分析学会理事 【研究分野】 人工知能,教育工学,人間情報学・感性情報学 【研究テーマ(主なもの)】 ・教育評価の数理的手法,学習データ分析,テストデータ分析,順序データの構造分析手法 ・知的教育・学習支援システム,適応学習のための制御手法 ・Affective Computing for Learning/Education(学習履歴データ,行動データ,生体計測データからの学習者の心的状態の推定手法) ・感性情報科学,スキル分析,Human-Computer/Agent/Robot Interaction,感情に関する脳機能モデリング など 【所属学会】 学習分析学会,人工知能学会,電子情報通信学会,情報処理学会,教育システム情報学会,日本教育工学会,日本感性工学会,認知科学会,IEEE,APSCE 等
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