コラム : 研修企画力に関する考察

2012年11月25日

アルー株式会社 教育研修事業部 コンサルティング統括 シニアエキスパートマネージャー 清水 裕一

アルー株式会社 教育研修事業部 コンサルティング統括 シニアエキスパートマネージャー 清水 裕一

早稲田大学 第一文学部社会学専修卒、アンダーセンコンサルティング(現アクセンチュア株式会社)入社。採用企画・実務、研修企画・運営業務等を担当。その後大手人材教育会社、人材コンサルティング会社にて採用支援、研修プログラム開発、人事領域コンサルティング、社内マネジメント業務等を経て、アルー株式会社に入社。研修プログラム開発部署の立ち上げ、研修企画・教材開発・営業支援を手がけ、現在は、シニアエキスパートマネージャーとして経営に携わる一方、組織変革コンサルティング、講師として活躍。講師登壇数は年間100日以上。のべ受講者数は1万人。リピート実績は80%を超える。企画・コンサルティング業務経験は20年以上。


今回は「研修企画力」というテーマを取り上げたいと思います。

「研修企画力」

研修企画力については、実は数年前から関心を持っていました。弊社マーケティング部と、通常の研修と異なる形で、何か世の中の人材育成に携わる方々に提供できるサービスはないかと検討していた際に取り上げたのがこの「研修企画力」というテーマです。

こうした背景から開講した「研修企画運営スキルアップ講座」は、2010年初開催以来、多くの人事・人材育成ご担当者様にご好評いただき、定期的に開催しています。研修企画力を論じる際に、机上の空論ばかりに終始するのもどうかと思いますので、この「研修企画運営スキルアップ講座」におけるご参加者(人事ご担当者・事業部付育成ご担当者・事業部長等)の声を交えながら進めていきたいと思います。

「考察の観点」

企画という言葉は、「ある事を行うために計画を立てること、企て」というのが、恐らく通常の意味合いでしょうが、ここで問題になるのは、「計画は完遂されなければ意味が無い」ということです。すると、「研修企画力」に関してまず言えることは、「完遂されるべき研修の計画とはどういう点に注意して、いかに立案するべきか」という点が、論ずべき点になります。

続いて、「そもそも研修とは何か」という点を取り上げます。まず、注意しなくてはならないのが、研修というイベントに関しては、かなり各人各様のイメージがあるということです。例えば、メーカーの製造現場にお勤めの方がイメージする研修とは、機械類の操作を扱うという作業訓練としての研修であったり、「古いタイプの研修」(とあえて呼びます)のみを受講されている方からすれば、いわゆる学識者やベテランといわれる方が講師として立ち、その方からの話をずっと静聴しているという、講話に近いイメージをお持ちの方もいます(講話が古いタイプの研修だから良くない、ということではありません。講話は講話で重要です)。

ここまで簡単な思考ではありますが、以上より、「研修企画力」を考察するという問いを、「各人各様のイメージを持っているかもしれない研修というイベントを完遂させる計画を、どのような点に注意して、いかに立案するべきか」というように置き換えて考察することにします。

「研修企画力に関する考察1」

「研修企画運営スキルアップ講座」のご参加者からは、以下のようなコメントがしばしば聞かれます。

  • 「上司との間で自分の企画が通らない」
  • 「自社で行っている旧態依然とした研修をどうにか変えたい」
  • 「全体的に研修への参加率や、重要性への理解が低いので何とかしたい」

上記のような問題を、「各人各様のイメージを持っているかもしれない研修というイベントを完遂させる計画を、どのような点に注意して、いかに立案するべきか」という見地から考察していくと解決が容易になるでしょう。つまり、上記のようなコメントで触れられるような状況では、研修に対する関係者間での共通の合意または定義の共有がなされていないということが、まず間違いなく言えます。それは、研修内容は当然のこと、「どのような設計思想で作られている研修か」、「講師はどのような力量で、どのようなスタンスで進める研修であるか」、「研修の場はどのようなものになるのか」、「どのような課題を解決する一助としての研修であるのか」等が、「共有」されていないということです。

つまり、「研修企画力」を構成する力の一つは、「研修内容やその付随情報を明らかにして、それらを関係者間で共有する力」であるというのが、本稿の結論の一つ目です。

「研修企画力に関する考察2」

次に取り上げたいのは、「研修企画運営スキルアップ講座」のご参加者の方々からのこのような声です。

  • 「研修体系(育成体系)を見直しているが頓挫している」
  • 「研修体系(育成体系)に問題があると思うがどこに問題があるかが分からない」
  • 「OJTとOff-JTの関連付けの仕方が分からない」

これらは、「各人各様のイメージを持っているかもしれない研修というイベントを完遂させる計画を、どのような点に注意して、いかに立案するべきか」という観点から考察すると、「個々の研修及び研修体系(育成体系)全体で、どのような効果をもたらそうとしているかが不明確または定義されていない」という問題に該当することが分かります。「研修効果について上司に良く尋ねられるが、いい答えが見つからないので困っている」というお悩みも少なからず伺いますが、当然ながらそのようなお悩みも、ここに含まれます。

研修の効果というと、いわゆるドナルド・カークパトリックの研修効果の定義が古典的かつ有名で、しかも妥当な定義ではないかと私は考えております。

但し、かかる定義のレベル4、つまり「研修の前後で売上、生産コスト、離職率などの数字がどの程度変化したのかを評価するもの。ただし、その結果が研修によるものなのかの判定は容易にはできない。上司等にインタビューして測定の精度を高めるなどが重要」というのは、実務的にはまず難しいものと考えています。なぜなら、これはある事象(売上・生産コスト・離職率等)において、研修がどのような作用をなしたのかという因果関係論として捉えるならば、それは、実はある事象における因果関係を全て把握していないと厳密な定量化は不可能であると考えられるからです。

そして、もしも仮に因果関係論にて厳密な定量化が可能であるならば、もともと取り上げていた事象(売上・生産コスト・離職率等)の解決が相当容易になる話なのですが、実際上は、「それが分かっていれば苦労はしない」という話ではないでしょうか。

効果測定の考え方

効果測定の考え方

※「カークパトリックの4段階評価モデル」とは、ドナルド・カークパトリックにより開発された研修の効果測定方法。最も広く人材育成プログラムの効果測定に活用されている。また「4段階評価モデル」をさらに発展させて、5段階「ROI測定」、6段階「サステイナビリティー」、7段階「ベネフィットの共有」まで測定する考え方も存在する

少し難しくなりましたが、つまり、研修効果の定量化と言っても因果関係論では考えにくく、せいぜいは相関関係を定量化する程度ではないでしょうか。そして、相関関係を見る程度であれば、(こと研修に関して言えば)わざわざ定量化をする必要があるのだろうか、もしも、必要性があったとしても、それは「アリバイ作り」程度の必要性・価値しかないのでは、という疑問が私にはあります。 以上までは、定量的な効果という点から考察していたわけですが、一方で定性的な効果も考えられます。定性的な効果については明確に決めることが出来ます。詳しい検討はここでは省略しますが、「研修企画運営スキルアップ講座」で結論的に述べていることは以下の2つです。

  • 「研修体系(育成体系)の効果は、経営ニーズ・事業ニーズから定義される」
  • 「個々の研修プログラムの効果は、受講者の受講前後の言動(発言内容や振る舞い)の変化から定義される」

「研修体系(育成体系)を見直しているが頓挫している」は、「経営ニーズ・事業ニーズを、組織ニーズ・人材ニーズに変換することが出来ないでいる」ということです。「OJTとOff-JTの関連付けの仕方が分からない」は、「個々の研修プログラムにおける、受講者の受講前後の言動を曖昧にしか定義できていない」ということです。

そして、「研修体系(育成体系)に問題があると思うがどこに問題があるかが分からない」は、それら両方が混在していると考えられます。 以上より、「研修企画力」を構成する力の二つ目は、「研修体系・研修プログラムの効果を、経営・事業ニーズ、及び受講者の受講前後の言動から定義づけできる力」である、となります。

前段は少し長くなりました。ここで、話の切り口を変えて、「研修企画運営スキルアップ講座」でお伺いした話を、差し障りの無い範囲で取り上げます。

私にとって一番衝撃的だった話を取り上げます。それは、「以前、研修体系の見直しを外部の研修会社に依頼し、安くない費用がかかったにも関わらず、全然使えない研修体系が成果物として出てきた」という話です。しかも、これまで複数のご参加者から伺っています。「全然使えない研修体系」とは何をもってそう断じられたかと言うと、「書かれている内容に、関係者一同、納得感を持てなかった」であったり、「経営層の要望や思いだけを研修体系に反映してしまいありえない位に人材に対する要求水準が高い。いわゆる絵に描いた餅だった」、「スキルやスタンス等の詳細な記述ばかりで訳が分からず途方にくれた」等です(当然、いずれも参加者の方々からのコメントです)。

某研修会社の調査によれば、研修ご担当者様自身におかれましても、少なくない割合で、人材育成・研修領域に関する自らの知識不足を問題視されているとされています。弊社では、冒頭で述べさせていただいたように、数年前から人材育成領域自体の質的向上を図る取り組みを、「研修企画運営スキルアップ講座」の提供という形で行っており、大変高い評価をいただいています。「経営や事業の向上に資する、組織や人材の変革」という、研修企画の本旨が、多くの企業様で実現されることこそが、何よりも重要なことだと考えております。

そこで、「絶えず変化する外界に適応すべく行われている経営・事業に関するセンスと共に組織・人材の変革を志向する力」が「研修企画力」の三つ目に重要な力であると付記して、本稿を締めくくることとします。 ご精読いただきありがとうございました。

まとめ・本稿の結論

  • 「研修企画力」を構成する力
  • 1. 研修内容やその付随情報を明らかにして、それらを関係者間で共有する力
  • 2. 研修体系・研修プログラムの効果を、経営・事業ニーズ、及び受講者の受講前後の言動から定義づけできる力
  • 3. 絶えず変化する外界に適応すべく行われている経営・事業に関するセンスと共に組織・人材の変革を志向する力

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