コラム : 新興国で事業を立ち上げるグローバルアントレプレナーの育成

2012年07月10日

アルー株式会社 代表取締役社長 落合 文四郎

アルー株式会社 代表取締役社長 落合 文四郎

東京大学大学院理学系研究科卒、株式会社ボストンコンサルティンググループ入社。国内大手通信会社の新規事業立ち上げ支援、国内中堅企業向け人事制度構築や国内一部上場食品メーカー向け人事制度基本コンセプト策定などのプロジェクトに参画。理学系のバックグラウンドを活かし、特に論理的/分析的思考において強みを発揮。2003年10月、株式会社エデュ・ファクトリー(現 アルー株式会社)を設立。現在、海外新規事業開発、中国事業(上海現地法人)、グローバル人材育成、 社員エンゲージメント研究の統括を行う。


自社のグローバルビジネスを推進する上で、その推進を担うグローバルリーダーの育成は、多くの企業にとって緊急かつ重要な課題である。本稿では、事業の創造期におけるグローバルリーダーの育成のあり方について検討してみたい。

グローバルリーダーと一言で言っても、ビジネスのステージに応じて、求められる要件が異なってくる。事業の創造期においては、事業の立ち上げを推進するグローバルアントレプレナーが必要であり、事業の拡大期には、既にある事業を継続発展させていくためのグローバルプレイヤーとそのマネジメントを行うグローバルマネジャーが必要となる。拡大期から安定成長期に移行するにつれて、グローバルプレイヤーが担う役割について現地化が進むため、グローバルマネジャーが主流となる。事業の変革期においては、組織変革を推進する変革のリーダーが求められる(図1)。

図1. 自社のグローバル戦略から必要なグローバル像を考える

図1. 自社のグローバル戦略から必要なグローバル像を考える

ポイントは、グローバルアントレプレナー、グローバルマネジャー、グローバル変革のリーダーに求められる要件がそれぞれ異なり、その選抜方法・育成方法はおのずと異なってくるということだ。事業を立ち上げるアントレプレナーは必ずしも有能なマネジャーではない。逆に、既存の事業をうまく回し、10を100にできるマネジャーは、必ずしも0から1を創ることが得意ではない。そのため、まずは自社のグローバル戦略から、自社に必要なグローバルリーダー像を明らかにすることが重要になってくる。

グローバルマネジャー、グローバル変革のリーダーの育成については、別稿に譲るとして、ここではグローバルアントレプレナーの育成について検討する。

弊社が考えるグローバルアントレプレナーに必要な要件は、以下の5つである。

1. 共存共栄の精神

自分、自社、自国のためだけではなく、その国の人、その国の町、その国のためを考えられる必要がある。なぜならば、「自」のためだけにやっている個人・組織は、遅かれ早かれその場所から締め出される。現地の社会にどう貢献するのかを考えて、発信し、実行できる人がその国にとっても、自社の戦略にとっても必要である。

2. 強い内発的動機

事業の立ち上げは、0から1を作るので、「やらなくてもいいこと」を、あえて自分からやり始めなければいけない。新興国の事業立ち上げとなれば、生活面やプライベート面での犠牲をある程度覚悟する必要がある。このような状況の中で、新興国に行って事業立ち上げをするのは、「命令されたから」だけでは、長続きしない。自分の中から湧き出てくる強い動機付けが必要となる。

3. 顧客の創造

日本で扱っている商品・サービスを現地でそのまま売れるというのは極めて稀なケースである。むしろ、靴を履いていない人に靴を売る、北極でアイスを売るのと近い感覚をもって臨んだほうがよい。当然ながら、日本と同じやり方では通用するわけがない。現地で、文化や行動様式を知識として理解するだけではなく、肌身で感じて、その立場になってやってみる。現地にいって、現地の人と話して、観察して、自分も現地の人と同じように生活やビジネスをしてみなければ、気がつくはずもないのである。

4. 社内のネットワーク

日本人や日本の会社がその国になぜ受け入れられるのかを考えてみると、日本人あるいは日本、またその会社ならではの強みがあるからである。自社の強みを生かすには、社内のネットワークが必要となる。電話一本で、研究開発、商品開発、生産、マーケティング、コーポレートの各部署のキーパーソンと連絡がとれる非公式の関係性が必要になってくる。公式のレポートラインをたどっていくと、新興国市場のスピードについていけなくなってしまう。

5. ビジネスの構えを作る

グローバルアントレプレナーには、ビジネスの種を見つけるだけではなく、グローバルマネジャーに引き継げるようビジネスの構えを作るまでの役割が求められる。それは一人ではできず、チームで実践しなければいけない。そのために数人~数十人のチームを作り、チームでビジネスが回る初期的な仕組みを作り上げる必要がある。

グローバルアントレプレナー育成に必要なプロセスは、選抜→育成→実践→内省である。このような資質をもつグローバルアントレプレナーに、全員がなれるわけではなく、なる必要もない。だからこそ、必然的に選抜というプロセスが必要になってくる。また、アントレプレナーに限らず、リーダーシップの開発は、研修によるものが10%であり、残りは経験や薫陶からくるという調査がある。研修による育成は大切ではあるが、それだけでは不十分である。育成のプロセスを経た後に、どのように実践機会を与え、その機会をどのように振り返って内省させるかについての全体の設計が必要となってくる。

このような育成体系を整えることで、アントレプレナーを輩出することは十分に可能である。「アントレプレナーはそもそも育成可能なのか?」という問いがあるだろう。私は、「グローバルアントレプレナーは、育成できない“資質”の要素が多い」ものの、「育成体系を整えることによって、本来“資質”を持っている人に光を当て、強みを引き出し、機会を提供して、彼らの資質が開花する道筋をつける」ことは可能であると考えている。このような機会を企業として創出していけるかが、今後の戦略実現、発展を左右していくだろう。

コラム-テーマ別

レポート-テーマ別


「 新興国で事業を立ち上げるグローバルアントレプレナーの育成 」のトップへ