コラム : インドにおけるグローバル人材事情~現地からの報告

2012年05月11日

アルー株式会社 インド現地法人 マネージングディレクター 岩名 隼人

アルー株式会社 インド現地法人 マネージングディレクター 岩名 隼人

早稲田大学政治経済学部政治学科卒業後、信金中央金庫にて企画、融資審査、債権管理業務を担当。その後、株式会社ベンチャーバンクに入社。経営企画室にて、社内体制整備と制度立案・導入に従事。2010年アルー株式会社に入社。コーポレート部にて戦略立案、社内制度構築を経て、アジア数カ国での在住経験を活かし、11年10月よりインド現地法人マネージングディレクターとして営業・人事・経営を統括。


インドの経済動向は、2011年10-12月の実質国内総生産(GDP)成長率が過去3年間で最低の6.1%にとどまったものの、08年から10年の3年間の平均成長率でみると7.8%と、高水準の成長を続けている。その高度成長の最も大きな理由は、1991年以降の新経済政策(New Economic sPolicy、以下NEP)に基づく計画経済から市場経済への移行である。

インドの実質GDP成長率

対象年 2008年 2009年 2010年
実質GDP成長率 6.8% 8.0% 8.6%

(出所)日本貿易振興機構 参考URL:http://www.jetro.go.jp/world/asia/in/stat_01/

ネルー首相時代からの頭脳立国戦略と印僑の躍進

では、インドのグローバル化は91年に始まったのか、と問われれば、それはNoである。確かにインド国内において、国家の取り組みとしてグローバル化が本格的に始まったのはNEP以降と言える。しかし、初代首相であり、計画経済の推進者でもあったネルー首相は、独立からわずか4年後の51年に、かの有名なインド工科大学(Indian Institutes of Technology)を開校。既にその当時から国際競争力のある頭脳立国を目指していた。

その目論見は見事に成功し、非常に優秀な科学者の卵を次々に輩出した。この人材こそが、現在のGDPの60%を占めるIT産業を支えているのである。

しかし、NEP以前の計画経済下においては、インド国内に活躍の場が少ないと感じたインド工科大学の優秀な卒業生たちは、海外に進出。その地でビジネスを成功させていった。彼らが印僑といわれる人たちである。彼らは唯一の選択肢として海外進出しただけではなく、自ら先進国でのグローバルビジネスに踏み込んだ。メリルリンチの調査によると、米国で1億円以上の資産を持つ個人の10%が印僑であり、政治的にも大きな影響力を有している。

グローバル競争におけるインドのアドバンテージ

このようにインドでは、偶発的な要因もあるものの、戦略的に築かれた高い教育水準、歴史的背景から確立した高い英語力(準公用語)を武器に、高いグローバル競争力を身に付けてきた。しかもインドは、歴史的・地政学的要因により、常に外敵からの侵略を受け続けた背景もあり、人種や文化、言語が無数に織り交ざり共存する多民族国家である。国自体が多様性そのものと言っても過言ではない。こうした背景からインドの人材は、弊社がグローバル人材の基本要件として定義している「異文化受容」(ボーダーレス)、自ら動き周囲に働きかける「主体性」(イニシアチブ)、互いに相乗効果を生み出し貢献する「チームワーク」にも長けている。国自体がグローバルな環境であるため、グローバルビジネスを成功させる上で、日本に比べアドバンテージが大きいとも言える。

このグローバル競争に適した環境の影響は現実に顕在化してきており、印僑を中心に、数多くのインド人が、多国籍企業のトップを務めている。米タイム紙(11年8月1日号)の記事によると、インド人が多国籍企業のトップを務めることが多い理由として、以下の3つが挙げられている。

  1. 英語ができること
  2. 多民族・多宗教・多言語の国であること
  3. 自国のインフラ不足や過剰規制、政治体制の腐敗により、優秀な人の海外志向が強いこと

実際、シティグループ、ペプシコ、スタンダード&プアーズ、ドイツ銀行、マスターカードといった企業のトップはインド人が務めている。このような世界的な多国籍企業で、トップを務める日本人は非常に少ない。

上記の(3)については、積極的要因というよりは、インドが抱える課題と言えるが、(1)と(2)については、明らかにグローバル競争に勝つための強みだ。日本人の英語力が低く、ほぼ単一民族・単一言語であることを鑑みると、日本のグローバル競争力は厳しい状況にある。今、日本企業は、国内だけでなくグローバルを視野に入れ、本格的に人材育成に取り組んでいかないと、今後のグローバル競争に勝てる見込みが日に日に薄くなっていくのではないだろうか。

こうした中、我々日本企業は今後、どのように中長期的な組織戦略を作り上げていくべきであろうか。まずは将来を見据え、自社のグローバル戦略実現に向けた決断を下していく必要がある。例えば海外進出を含め、「今後3年以内に海外で生産、製品販売をする可能性があるか?」など、毎年定点で自社の経営戦略の意思決定をする。それが仮にYesであったとすれば、既に戦略として時機を逸している可能性もあるが、直ちにグローバル組織戦略を構築する。実現のため、組織と人材の両面から変革していけるかが重要となる。

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