コラム : 中国のグローバル人材育成最新事情  [後編]

2012年01月18日

陳 振

アルー株式会社 上海現地法人 艾陸企業管理咨詢(上海)有限公司 副総経理 陳 振

2002年日本に留学。早稲田大学経済研究科および中央大学経済研究科を卒業後、株式会社インテリジェンスに入社。事業企画から中国進出まで担当。 2007年からインテリジェンス中国現地法人に駐在。合弁会社の新規事業の立ち上げや独資法人の総経理を歴任。2010年アルー株式会社に入社、現地法人である艾陸企業管理咨詢(上海)有限公司の副総経理として中国事業をマネジメントしているほか、講師としても活躍。人材マネジメントと中国の人材サービス業界に詳しい。


中国のグローバル人材育成最新事情~現地からの報告

「中国のグローバル人材育成最新事情~現地からの報告」前編で、グローバル人材育成に向けた中国の国家レベルの取り組みを紹介した。後編では、中国の企業レベルの取り組みを事例と共に紹介したい。

中国のグローバル人材育成の歴史を振り返ると、中国企業は世界貿易機関(WTO)加盟前から、加盟後の規制緩和がもたらす発展機会の増加と国際競争の激化を視野に入れた動きをしてきたことが分かる。人材面においても、自社の成長と国際競争を勝ち抜いていくために必要不可欠となる“グローバル人材”の育成を重要視してきた。中国では、“グローバル人材”を“国際化人材”と表しているが、このような“国際化人材”の育成を多くの中国企業は10年前から重要な経営課題として取り上げ、数々の施策を実施してきた。代表的な育成施策としては、(1)企業大学の創設 (2)名門大学との産学提携 (3)管理幹部候補生制度 (4)海外派遣研修(中国語表記“標桿之旅”)――の4つが挙げられる。

1.企業大学の創設

企業大学は、米国のゼネラル・エレクトリック(GE)が1955年に世界で最初に創設。以降、多くの企業がこの“企業大学”の理念を導入し、設立するようになった。中国においても、欧米系企業の進出に伴い、こうした“企業大学”の理念が浸透していった。

初めて中国で企業大学を設立したのは、モトローラである。1993年のモトローラ中国企業大学の設立以降、シーメンスなどの欧米企業が相次いで、中国における人材育成を目的として企業大学を開設。こうした流れを受け、1998年に春蘭社が6000万元(当時の約7.8億円相当)を投資し、中国現地系企業として初の企業大学を設置した。そこから企業大学設立の動きが中国現地系の有力企業にも広がり、自社の人材育成機関として、現在までに300社以上が企業大学を開設するに至っている。ハイアール、中国モバイル、中国ユニコム、TCL、蘇泊爾、国美、華為、騰訊などがその代表例である。

この中国現地系の企業大学では、一般的な社員教育だけではなく、グローバル人材すなわち“国際化人材”の育成にも積極的に取り組んできた。具体的には、ハーバード・ビジネス・スクールのような欧米の名門大学の教授や大手多国籍企業の高級管理職を講師として招き、グローバル経営のケーススタディーやグローバル経営経験を自社の高級管理職に学ばせるような取り組みである。

また、中国現地系の企業大学は、欧米系の企業大学のマネジメント経験者を積極的に採用。欧米のノウハウを取り込み、グローバル人材育成に対応できるような体制づくりに力を注いでいる。例えば、騰訊人力学院の院長馬永武氏は、元HP商学院の副院長であり、蘇泊爾大学の院長は、元シーメンス大学の副院長である。企業大学は社員の異文化マネジメント能力を引き上げ、“国際化人材”を育成するうえで大きく貢献し、企業の国際化戦略実現を後押ししてきた。

2.名門大学との産学提携

中国現地系企業のグローバル人材育成の特徴として、“大学の活用”が挙げられる。社員のスキルアップや国際的な視野を広げる役割を大学に任せる企業は多い。大学の活用には主に2通りのやり方があるが、その1つが大学と提携し、企業大学を運営する方法である。この代表例としては、エリクソン中国学院がある。スウェーデンのエリクソン社は中国の名門大学である復旦大学と提携し、通信管理マスター学位プログラムを開設している。また、オーストリア国立大学とも提携し、MBAプログラムを開設。中間管理職以上の幹部社員に提供している。

もう1つは、大学に“定向委培”を委託する方法である。この“定向委培”とは企業が社員を大学に通わせ、指定した分野の学位を取得させることを意味する。こうした“定向委培”は、主にMBAやEMBAに集中している。

大学側も産学提携を促進するために、特別施策を打ち出している。例えば、清華大学では企業合作委員会を設け、積極的に企業との提携を進めている。提携先企業は宝鋼集団、中国電信、上海汽車、中冶集団、中国華能、神華集団、二灘水電、華為技術、四川長虹、東方電気、中国広東核電集団、巨化集団など有力企業約 190社に上る。

3.管理幹部候補生制度

グローバル人材育成の対象は中間管理職以上だけではない。とりわけ大手企業は新入社員の育成にも注力しており、幹部候補を育成する“管理培訓生” (Management Trainee)という制度がある。“管理培訓生”の対象者は、新卒から社会人3年目までの若手社員である。この対象者の採用選考にあたっては、一般社員と違う基準が適用され、(1)チャレンジ精神 (2)リーダーシップ (3)分析&問題解決能力 (4)学習能力 (5)表現力(プレゼンテーション) (6)英語 ――といった要素が重視される。入社後の処遇も異なり、給料が1万元(約13万円)前後と通常の一般社員より3倍以上高いほか、育成体系、キャリアステップも別である。

企業は、こうした管理幹部候補生を入社後3年から5年の間に集中的に育成し、グローバル人材として会社の中間管理職以上まで一気に成長させる。このような制度を取り入れている代表企業としてシーメンスやアンハイザー・ブッシュ・インベブなどがある。

参考: ABインベブの“管理培訓生”プログラム

プログラム 期 間 概 要
Global Induction 6日間 世界各地から研修生が集まり、会社の戦略、組織、ミッション、マネジメントスキル、コミュニケーションの基礎を学ぶ。
Field Training 4カ月間 営業現場と生産現場での4カ月間の研修を通じて、会社の実情を理解。研修の最後に理解度確認の試験を実施。
Zone Headquarters Training 3週間 各地域本部での研修を通じて、各地域の機能、相互作用、運営を理解。この期間に自己のキャリアを考え始める。
Field Assignment 5カ月間 営業現場または生産現場のチームに加わり、業務を行う。この期間において特定の目標が与えられ、評価が実施される。
First Position 12~18カ月間 Global Induction~Field Assignmentまでの10カ月のトレーニング終了後、母国に初配属され、12~18カ月間、経験を通じて事業理解をさらに深める。

4.海外派遣研修(中国語表記“標桿之旅”)

中国企業はグローバル人材育成のために社内資源を利用する一方で、社外の資源も積極的に活用している。4つ目の施策として海外派遣研修がある。海外派遣研修は、主に世界的な有名企業を訪問し、社内見学や座談会交流を通じて、グローバル企業の成功事例やビジネス運営のノウハウを学ぶ育成活動である。毎年、多くの中国企業の管理職がこの海外派遣研修“標桿之旅”に出ている。ある中国系研修会社が主催する海外派遣研修ツアーは、1年間に約80回開催され、1回あたりの参加人数は、20~30人である。“標桿之旅”の視察対象企業としてよく挙げられるのは、米国のIBM、ドイツのシーメンス、韓国のサムソン、そして日本のトヨタ自動車である。

中国が急速な経済発展を遂げ、いまなお成長し続けているのは、このように政府や企業が国内外のノウハウを取り入れ、国際舞台で戦える優秀なグローバル人材の育成に積極的に取り組んできた背景があるからである。

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