コラム : 中国のグローバル人材育成最新事情  [前編]

2011年12月01日

陳 振

アルー株式会社 上海現地法人 艾陸企業管理咨詢(上海)有限公司 副総経理 陳 振

2002年日本に留学。早稲田大学経済研究科および中央大学経済研究科を卒業後、株式会社インテリジェンスに入社。事業企画から中国進出まで担当。 2007年からインテリジェンス中国現地法人に駐在。合弁会社の新規事業の立ち上げや独資法人の総経理を歴任。2010年アルー株式会社に入社、現地法人である艾陸企業管理咨詢(上海)有限公司の副総経理として中国事業をマネジメントしているほか、講師としても活躍。人材マネジメントと中国の人材サービス業界に詳しい。


中国のグローバル人材育成最新事情~現地からの報告

中国は1979年の経済改革開放政策の下、目覚しい経済発展を遂げてきた。特に世界貿易機関(WTO)加盟以降、年平均約7%という急ピッチの成長路線を歩んでいる。その要因として、沿岸部の開発、インフラ整備への投資と外資企業の進出が挙げられる。一方で、製造業にみられる、安い労働力に依存した輸出けん引型のこれまでの経済発展モデルは、経済のグローバル化の進行に伴う競争激化により、ターニングポイントを迎えている。

こうした状況の下、中国の各企業にとって、企業競争力の強化が重要な経営課題となっている。企業間競争を勝ち抜くための源泉は何かと問えば、“人材”と回答する人が多いだろう。特に中国ではWTO加盟後、政府、企業ともに国際舞台で戦えるグローバル人材の育成を大きな課題ととらえ、重点的に取り組んでいる。そこで今回から2回にわたって、中国のグローバル人材育成の現地事情について紹介したい。

中国における国家レベルのグローバル人材育成の取り組み

そもそも「グローバル人材」とはどのような人材なのであろうか?
中国では総じて“グローバル意識と視野を持ち、国際レベルの知識と世界を舞台に活躍できる行動力があり、グローバル競争の中でチャンスをつかみとることができるハイレベルな人材”と定義されている。このグローバル人材の定義には以下の6つの要素が含まれている。

意識/知識 実行力/スキル
1.国際的な広い視野と強いイノベーション意識 4.異文化コミュニケーション能力
2.自分の専攻や業界に関する国際レベルの最新知識 5.国際的な活動能力
3.国際慣例を理解できる 6.高い情報処理と運用能力

これらの要素を満たすグローバル人材を育成するために、中国は国家レベルと企業レベルの両面で取り組んできた。まず国家レベルの取り組みから紹介しよう。

2001年以降、中国は大学に重点を置き、大学生を対象としたグローバル人材の育成を強化している。中国では人材育成を学校に依存する傾向が強く、政府と大学が連携し、グローバル人材育成を推進している。これまでの取り組みには、以下のような特徴が見られる。

1.留学生を大量に海外へ送り込む

経済改革開放後、留学制度の緩和と国民所得増加に伴い、海外に留学する中国人が増えている。留学生には政府が派遣した国費留学生と、企業が派遣した公費留学生、そして個人による私費留学生がいる。とりわけ90年代以降、私費留学生数の伸びが著しい。中国教育部の統計によると、2003年以降、年平均14万人以上が海外に留学している。10年までに留学した人数は、累計190万人以上で、このうち63万人強が中国に帰国した。例えば中国の名門大学である清華大学と北京大学では、毎年約3000人の卒業生のうち、3割以上が留学の道を選んだ。これらの留学生の行き先として多いのが、米国、カナダ、英国、オーストリアと日本である。

彼らは留学を通じて、外国語を使いこなせるようになるだけではなく、視野も広がり、チャレンジ意欲も鍛えられ、異文化コミュニケーション能力も身に付ける。留学を終えて、海外で就職する人もいれば、そのまま帰国する人もいる。現在、中国のビジネス社会で活躍している元留学生は多い。例えば、現マイクロソフト中国の副董事長CEO張亜勤氏、創新工場の創業者李開復氏(元Google中国CEO)、現人人網(中国のfacebookと言われる)のCEO陳一舟氏などが挙げられる。

2.MBAとEMBA学院の設置

2001年のWTO加盟後、人材の国際競争力強化に向けて、多くの中国の有名大学では、企業のグローバル展開を支える人材を育成するためのMBA学院を開設した。中には海外の有力大学と提携し、設置した大学もある。教育部の統計によると、昨年までにMBA学院を設置した大学は236校あり、このうち海外の大学と共につくられたMBA学院は54校、2010年の入学人数は3万6000人にのぼる。

ここ最近では、MBA以外の社会人向けEMBA(EXECUTIVE MASTER OF BUSINESS ADMINISTRATION)コースが話題となっており、EMBAコースを新設した大学は早くも64校まで増加。海外の大学をあわせると、中国国内でEMBAコースがある学校は100校以上にのぼる。EMBAの学生は、企業の中間管理職以上の層が多く占めており、授業時間は夜間か土日が中心。学費は年間10万元~30万元(日本円にして約120万円~370万円)と安くはない。

中国系の大手企業や欧米系企業では、企業が学費を出し、管理職をEMBAコースに派遣するケースが多いが、残念ながら日系企業にはあまり見られない。MBAやEMBAコースの講師は大学の教授、企業の経営者や外国人講師もいるため、知識の吸収だけではなく、生のビジネスケーススタディも学べ、異文化の勉強もできる。また1クラスに30名前後の受講生がおり、多くのビジネスマンと共に勉強し、議論を通じて刺激を受けながら、視野も広げられる。

企業レベルでは、特に中国に進出した外資系企業が中国人のグローバル人材育成に多大な貢献をしてきた。外資企業が現地化を進めるためには、優秀な中国人を登用しなければならない。登用できる人材を育成するために、社内研修や本社への派遣研修を通じて、スキルアップを図るケースがよくみられる。この詳細については次回、事例と共に紹介したい。

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