コラム : 企業におけるグローバル組織戦略 [後編]

2011年08月03日

アルー株式会社 代表取締役社長 落合 文四郎

アルー株式会社 代表取締役社長 落合 文四郎

東京大学大学院理学系研究科卒、株式会社ボストンコンサルティンググループ入社。国内大手通信会社の新規事業立ち上げ支援、国内中堅企業向け人事制度構築や国内一部上場食品メーカー向け人事制度基本コンセプト策定などのプロジェクトに参画。理学系のバックグラウンドを活かし、特に論理的/分析的思考において強みを発揮。2003年10月、株式会社エデュ・ファクトリー(現 アルー株式会社)を設立。現在、海外新規事業開発、中国事業(上海現地法人)、グローバル人材育成、 社員エンゲージメント研究の統括を行う。


前回のコラムでは、世の中の流れと自社の長期ビジョンから、経営陣の意思決定の方向性を先読みした上で、組織戦略を策定・実行することが必要であると述べた。同時に、将来の不確実性に備えるためにも「柔軟性・適応性のある組織開発」を手がけるべきであることをお伝えした。

現在の日本企業を取り巻く一番大きな流れは、グローバル化である。今回のコラムでは、グローバル化の流れにおける組織戦略構築の鍵について、具体的に言及する。

企業におけるグローバル組織戦略

グローバル化の流れの中で、グローバルな事業展開を目指す日本企業における組織戦略構築の鍵は、次の4つに集約される。

  1. 全員グローバル人材
  2. ビジョンと強みのマネジメント
  3. 新興国アントレプレナーシップ
  4. グローバル組織の見える化

1. 全員グローバル人材化

表1. グローバル人材とは? グローバル人材の3つの基本要件

異文化受容
[ボーダーレス]
国境、人種、文化の壁を越えたコミュニケーションがとれること(語学を含む)
主体性
[イニシャティブ]
自分から動いて、周囲に働きかけることができること
チームワーク
[1+1+1>3]
チームとしての相乗効果を生み出すことに貢献できること

グローバルの本質は多様性であるから、Aの異文化受容はグローバル人材の第一要件である。ここでいう異文化は、国境を越えるという意味も含むが、それに限らない。例えば、中国やインドにおいては、地域が異なれば言語も文化も異なり、「中国人」や「インド人」とひとくくりにする発想自体がナンセンスである。もっと言えば、日本の中であったとしても、一人ひとりは違う人間であり、それぞれ別の個性をもっている。このような一人ひとりの違いについても理解し、受容できることが大切なポイントとなる。

グローバルなビジネス環境において生き抜くためには、多様性を理解して受容するだけではなく、自ら発信して自ら動くBの要素も重要である。筆者の前職である外資系のコンサルティング会社では、発言しない人は価値がない人とみなされていた。(そして、次回の会議には呼ばれない。)一方で、日本人は和をもって尊しとなす精神があり、自らの考えを声高に主張する人は少ない。しかし、グローバルな環境においては、これではいけない。まずは、自ら発信する姿勢が不可欠である。

Cの1+1+1>3も、グローバル人材に必要な要素である。グローバルに進出する本質的な価値の源泉は、多様性を生かして相乗効果を生み出すことである。これができなければ、国内に留まっていることと変わりなく、グローバルに進出する意味が本質的に失われてしまう。

A、B、Cを満たす人材を育成するための第1のキーワードは、「全員グローバル人材化」である。「グローバル人材=海外で働く人」ではない。勤務地は国内であったとしても、これからはグローバルな視点で多様な背景を持つ人と一緒に働くことが求められる。「全員グローバル人材化」のための育成施策としてアルーが推奨するのは、以下の3つである。

  1. 自社のグローバル人材育成体系の構築(図1)
  2. 1~5年目までの全ての階層別研修にグローバル人材育成カリキュラムを組み込む
  3. 30歳までに、全員2カ月以上の海外経験を積ませる

図1. アルーが提案するグローバル人材育成体系

アルーが提供する人材育成体系

2. ビジョンと強みのマネジメント

組織構築の鍵となる2つ目のポイントは、ビジョンと強みのマネジメントである。

トヨタ自動車では社長の掲げた方針が、1カ月以内に全ての従業員の個人の目標に落とし込まれるという。グローバル化に伴い、ビジョンと戦略、目標に関する明示的なコミュニケーションが求められる。日本には「あうんの呼吸」というものが存在し、ビジョン・戦略・目標に関する明示的なコミュニケーションはなく、以心伝心ですませる文化がある。しかしながら、このやり方は海外では通用しない。何が将来であり(ビジョン)、その道筋はどれであり(戦略)、今期の具体的な到達ゴールは何か(目標)を全地域・全階層において明示的に伝えていく必要がある。(トヨタはこれを1カ月以内で行うのだ。)

個人に落とし込まれた目標を達成する際に、一人ひとりの「強み」に注目して、それを最大限生かすマネジメントを行うのが、強みのマネジメントである。「強み」をうまくマネジメントすることで、パフォーマンスの最大化、育成スピードの向上、本人の働きがいの創出が期待できる。一方で、日本では「強み」に注目するという考え方が根付いていないように思われる。日本と中国の「強み」に関する意識調査でもその傾向がはっきり分かる(図2)。

図2. 日本と中国の強みに関する認識の違い

図2. 日本と中国の強みに関する認識の違い

出所:アルー株式会社25~34歳 日本・中国若手社員意識比較調査(日本人300人/中国人269人)

 

こうしたビジョンと強みのマネジメントを行う主体は、管理職である。したがって、ビジョンと強みのマネジメントの展開施策としては、まずは全管理職にビ ジョンと強みのマネジメントの大切さと具体的な方法論を理解させる。その上で自部署の中で実践させ、実行結果を徹底的にモニタリングするという、愚直なプロセスが必要となる。

3. 新興国アントレプレナーシップ

3つ目のポイントは、「新興国アントレプレナーシップの醸成」である。日本企業に必要なのは、新興国におけるビジネスを自ら切り拓くことができる人材、すなわち、新興国アントレプレナーではないかと考えている。

アントレプレナーは座学では育成できない。全員がアントレプレナーになれるわけではなく、そうする必要もない。「新興国アントレプレナーシップの醸成」のポイントは、「選抜」をして「現地」で育成することである。選抜は、現地への派遣研修で見極めるというのが最も確実な方法である。2カ月間、現地に派遣し、その国における自社のビジネス展開プランを考えさせる。もちろん、机の上で考えるのではなく、現地の消費者やパートナー、政府関係者に実際に会うプロセスの中で考える。このプロセスの中で、異文化への適応能力、リスクへの対応能力、人的ネットワークの構築能力など、さまざまな能力を見極めることが可能となる。

4. グローバル組織の見える化

4つ目のポイントである「グローバル組織の見える化」とは、グローバル展開している組織の生産性・健全性を、指標化して見えるようにすることである。日本本社のグローバル組織を管轄する部署においても、世界各国に散らばっている現地法人の組織の状態を把握していないことが多い。ある会社の中国現地法人で人事責任者から聞いた話だが、「本社からは採用を増やせといわれているが、採用競争力がなく採用が困難であるばかりでなく、離職率が高く、既存社員の引き留めもままならない」という。そのときに「本社はその状況を理解しているのか」と聞くと、「知る由もない」と言う。これでは、グローバル組織といっても、異なる会社の集合体にすぎない。

一方で、日本本社が全ての現地法人の様子を把握することは物理的に不可能であるし、現地に任せる部分も必要である。やるべきことは「組織の生産性・健全性につながる指標を作り、見える化」することである。見えないものはマネジメントできない。逆に、見えるようにすれば、そこから議論が生まれる。まずは、見える化して議論の俎上(そじょう)に載せることが第一歩となる。

今回挙げた4つのポイントが含まれる組織戦略を早期に策定して、10年かけて実行すれば、自社の事業戦略の遂行能力が伴い、かつ、競合他社が模倣不可能な組織文化を醸成できるはずである。

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