コラム : 企業におけるグローバル組織戦略 [前編]

2011年07月11日

アルー株式会社 代表取締役社長 落合 文四郎

アルー株式会社 代表取締役社長 落合 文四郎

東京大学大学院理学系研究科卒、株式会社ボストンコンサルティンググループ入社。国内大手通信会社の新規事業立ち上げ支援、国内中堅企業向け人事制度構築や国内一部上場食品メーカー向け人事制度基本コンセプト策定などのプロジェクトに参画。理学系のバックグラウンドを活かし、特に論理的/分析的思考において強みを発揮。2003年10月、株式会社エデュ・ファクトリー(現 アルー株式会社)を設立。現在、海外新規事業開発、中国事業(上海現地法人)、グローバル人材育成、 社員エンゲージメント研究の統括を行う。


少子高齢化・人口減少により国内市場が頭打ちとなっていることを背景として、多くの日本企業がグローバルでの事業拡大を一段と加速させている。事業と組織は車の両輪であるから、グローバルに事業拡大を企図するにあたり、必然的にグローバル組織戦略が大きなテーマとなってきている。

基本的な競争戦略は、「差別化」「コスト優位性」のいずれかの価値創出を、(A)一部の顧客に展開するか(B)大規模に展開するか、の組み合わせになるというM.E.ポーターの学説は有名である。その競争優位を導く要因としては、(1)戦略(2)オペレーション(3)組織(4)資産(ブランド、顧客資産など)という4つがある。この4つのうちで他社にまねされやすいのは、(1)と(2)である。戦略やオペレーションは、相手の目に見えやすいので、数カ月~1年という期間で差別化をすることができたとしても、早晩まねされてしまう。(4)の資産を一旦築くことができれば、まねしようとしても一朝一夕にはまねできないため、強い差別化要因となる。ただし、そのような資産を築くまでには長い年月がかかるのが通常であるため、長期的には(4)を獲得していくビジョンを描くものの、短中期的には(1)~(3)の中で差別化を図っていくことになる。

組織における差別化の重要性

組織による差別化は、戦略やオペレーションによる差別化に比べて、相手の目に見えにくくまねされにくい。トヨタ自動車の「カイゼン」に代表される組織風土は、いまや知らない人はいないほどに有名であるが、それが従業員の一人ひとりまで浸透している企業が果たしてどのくらいあるかを考えれば、組織風土のまねされにくさを理解することができる。

組織戦略を構築する難しさは、「組織戦略(ビジョン)は事業戦略(ビジョン)に従属する」というところにある。組織だけで、そのビジョンや戦略を考えることには意味がない。トヨタ自動車の「カイゼン」意識は、トヨタの事業戦略が、大きなターゲット顧客にコスト優位性を発揮するという戦略であるからこそ、生きてくる。ただ、組織だけで、ビジョンや戦略を考えることができないのは事実であるが、それに甘んじると組織戦略が後手に回る。それに加えて、「組織には慣性(それまでの動きや姿勢を維持しようとする性質)がある」ので、組織を変えようと思っても、簡単には変わらない。組織戦略が後手に回り、実行段階でも変わりにくいことが重なり合って、組織が事業展開上のボトルネックになってしまうことも珍しくないのである。

これを避けるためには、将来の事業展開の不確実さを受け入れた上で組織戦略を描き、組織の慣性を考慮に入れた上で、早めはやめに実行に移していくことが肝となる。

人材開発・組織開発部門が持つべき「先を読む力」

企業におけるグローバル組織戦略

企業の人材開発・組織開発部門の役割は、世の中の動向と自社の事業の方向性とそのぶれ幅を理解した上で、自社が事業展開上の舵をきるときには「既に準備が整っています」といえるように、先を見越した取り組みを行うことである。事業の方向性が不明確だからといって組織戦略を構築せず、トップから実行しろと言われるまで動かない、ということではその役割を果たしているとは到底言えない。

組織戦略策定・実行の時間軸は、短くても3年間、通常は5年間のスパンで考えることが望ましく、10年間のスパンで考えるべきこともある。逆に言えば、自社の経営陣が舵をきるときに、少なくともその3年前から動き出していなければ、自社の経営陣の意思決定のボトルネックになりえるということである。

では、どうすれば「経営陣の意思決定の先読み」ができるのか?当然のことながら、経営陣の意思決定そのものを先読みをすることは不可能である。ただし、大きな方向性を予測することは可能である。201X年に中東に工場を新設するということは先読みできなくても、将来東南アジア・中東に工場を新設する動きがでてくるかもしれないということは予測できる。このように、世の中の流れと自社の長期ビジョンから、経営陣の意思決定の方向性を予測するというのが、人材開発・組織開発部門責任者の1つの大きな役割である。現在の日本企業を取り巻く一番大きな流れは、グローバル化である。グローバル化の流れの中で、経営陣が3年後・5年後・10年後に行う意思決定の方向性を予測して、それに対応できる組織作りを今から始めるべきである。

もう1つの方法は、「柔軟性・適応性のある組織開発」を企図することである。将来の意思決定は、大きな方向性を予測できたとしても、その通りになるとは限らない。だとしたら、どのような意思決定になったとしても、それに対応できる人材・組織を構築していくという考え方だ。柔軟性・適応性を持った組織作りの鍵は、多様性である。多様性をマネジメントすることによって、環境の変化が来たときに適応しやすい組織体質をつくっておくのだ。

次回のコラムにおいては、グローバル化の流れにおける組織戦略構築の鍵について具体的に言及する。

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